第9話
こうしてわたしたちは、セントリーシュ学園という貴族令嬢の方々が国中から多く集まり、通っているという学校へとやってきました。
先ほどと同じように出入口の警備室でスリマ様が係の方に「見学に参りましたパンプキンバーグ家の者です」と言うとあっさりと敷地内に入ることができました。
門のときも思いましたが、貴族の方々が多く集まっているのにいくらなんでも警備がザルすぎるのではないかとさすがに疑問を抱かずにはいられなかったので、スリマ様にそのことについて尋ねると「認識歪曲魔法を使わせて頂きました」という答えが平然とした声色で返ってきました。さすが魔王軍総大将ですねと返す他ありませんでした。そしてこの方が魔王になれないようにしてしまった先代の魔王様はなんてことをしてしまったんだと再び思ってしまいました。
「はえぇ……」
それはともかく、学校って実際に見るとこんな感じなんだなぁと目の前にある大きな校舎を見て思わず感嘆の声を漏らしてしまいます。学校の知識は小説でしか知らなかったので、制服を着た方々が周囲をうろうろしているのが目に入るだけで何だかドキドキします。
「さあ魔王様。どうぞお好きなお姫様をお選びください」
「えぇ!?」
さあ、とスリマ様がいきなり凄まじいことを言うものですからびっくりしちゃいました。ビュッフェですのでお好きな料理をお取りください的なノリで言ってきましたよ。だけどこの方ならそんなノリで誘拐できちゃうんだろうなぁと思ってしまっているわたしがいます。
「うーん……」
お選びくださいと言われて周囲にいらっしゃる育ちの良さそうな生徒の方を見回しますが、素直に誘拐される方なんていなさそうです。誘拐されたフリをしても良いという方もいなさそうです。ですがせっかくここまで来たのだからひとりくらいは持ち帰りたいと思っているわたしもいます。
『向こうにひとりでいるあの方を狙いなさい。ついでにできたら配下にしなさい』
心の中の悪魔が囁いてきました。あなたは新たなる魔王なのですよ、と言わんばかりに。
悪魔に視線を誘導されると、中庭のようなところに置かれたベンチでひとりサンドイッチを食べている赤い髪をお下げにしている女子生徒の方に焦点が合いました。他の方とお喋りしている方は狙いにくいですし、この方を狙いましょうか。
『待ってください。誘拐なんてまさに悪魔の所業ですよ。いいんですか、あなたは王なのですよ』
一歩前に足を踏み出そうとすると、今度は天使が心の中で囁いてきました。悪魔の所業と言われましても、わたしって確かプチデビルの魔物だったはずです。つまり小悪魔なのですからむしろ悪魔の所業をするべきなのではないでしょうか。
「スリマ様。わたし、行きます」
「ご武運を」
とにもかくにも魔王になってしまったのですし、魔王になってしまったのならここでたまには魔王らしく積極的に前に出なければ。
「あ、あのゅ!」
わたしは覚悟を決め、ベンチの前まで歩き赤い髪の女子生徒の方の前に立ち口を開きました。思いっきり噛みました。
「…………何?」
思いっきり睨まれました。
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