第12話 罪の清算方法
あれから、レイの助太刀があった直後、外で待ち構えていた警察が強行突破をし金澤ミホとその仲間は逮捕された。あの4人は意外にも抵抗したりワーワー喚いたりもせず大人しくパトカーに乗せられた。
最後に金澤が車に乗せられる瞬間だった。レイが「ちょっとだけ待ってくれ」と、何か伝えたそうに近くにいた警官を止めた。
「何?ああ、アンドロイドの…。まだ用?」
すると、レイは金澤に「見ろ」と後ろへ目配せをした。レイの後ろには汚らしいロン毛にまともに風呂に入れていないからかフケだらけの頭。長い口髭を蓄えた汚らしく手錠をした男が2,3人の警官に囲われて立っていた。以前の面影は全くない。だが、何故だろうか。金澤はそれが誰か瞬時に分かった。
「安斉…。随分…老けたわね…」
「どうして…。どうしてこんなことを…。俺は、こんなこと頼んでいない!どうしてこんな勝手なことで大勢の他人を巻き込んだんだ!答えろよ!」
「――――安斉!落ち着け!」
「わ、私は…」
「文明規制法や機械弄りなんて、もうどーでもいいんだ…。俺を…。俺を静かに死なせてくれよ…!」
「―――――安斉!乗れ!」
「ミホーーーーー!勝手なことするんだったら、俺にはもう関わらないでくれよ!俺はー!俺はーーーーーーー!」
安斉コウスケは発狂しながら警官に抱えられ刑務所行きの車に乗せられた。
金澤はそんな安斉の姿を見てひどく放心した。自分が今までやってきたことはいったい何だったのだろう。あの人のためにやってきたことは、全くあの人のためになっていなかった。ただの、自己満足なのか。それすらも分からない。
しかし、1個だけ確信したことがある。きっと、安斉と会うのはこれが最後なんだろうなと、そう思った。
しばらくして金澤は、車の外から自分を見下ろすレイに問いかけた。
「どうして…安斉を私に会わせたの…?」
「…会いたかったんだろ?」
「あなた、悪魔ね…。あんな結果になるって知っていたら、あの人に会いたくなかった…。私は、もう死にたい…」
「だったら生きろ。生きて償え…。死は逃げだ。罪を犯した者の清算方法は…生きること…それしかない…」
「酷ね…。――――こういうとき、涙ってやつを流せたらいいのに…」
僕達はパトカーを見送ると、郵便局の中から疲れ切った顔のユウがはあはあと息を上げて出てきた。 警察と一緒に来ていた救護隊の人たちに手当てをしてもらったようだ。
「もうこんなのごめんだ…。最近の俺、疫病神に取り憑かれてるかと思うほどだよ…。お前のせいだ!お前が俺にまとわりつくから…。こんな事件に―――」
「何だよー。この前のはお前が勝手に捕まったんだろー?」
「だってしょうがねえじゃねえか!あれは…駅へ行こうとしたら急にアンドロイドに…」
「それを僕が助けようとしたんじゃないか!」
「助けてくれたのは乙神さんだ!お前ほとんど何もしてないだろうが!」
僕とユウがいつものように言い争いをしていると、レイはニコニコと屈託のない笑顔を浮かべて間に入り僕達2人の肩を叩いた。
「もー、2人共いつもみたいに喧嘩しないでよー。なにはともあれ、万事解決だからさー。仲良すぎかー」
「仲良くなんかありませんよ。乙神さん、こいつと俺を一緒にしないでください」
「そういえば、レイとこのおっさん知り合いなの?」
「あ…うん。実はね、ジュンイチロウさんは…」
当のおっさんはレイの話を全く聞いておらず、目をハートにして道端にいた胸元の開いた女性をナンパし始めた。僕達3人はおっさんのあまりの能天気さに呆れ果て、レイなんか額に手を当てていた。「またこれか」と言いたげな顔をしている。きっと、これがいつものテンションというか調子なんだろうな。一緒にいるとどっと疲れが出る。
「ちょっと、そこのボン・キュッ・ボンのセクスィ~なお姉さんこれから俺と一緒にディナーでもどう?いい店知ってるんですよ僕。もちろんここ奢りで…」
「ふうん。このナイスバディなお姉さんの私が貴様と飯を食いに行けと…?」
「…あっ、ニキータ!ニキータじゃないかぁ!あはは。や、やぁニキータ奇遇だな」
あれ、あの意地悪ババア係長だ。いつもの胸元を開けたスーツ着て何をしているんだ。…って、一応管轄内で事件が発生したから仕事で来ていたのか。毎度、お疲れさんです。
だけど、突入隊の中にもいなかったと思うし、その頃現場は騒乱していたから存在に気付かなかった。思ってたよりも影薄いな。ランク1のくせして外で何していたんだ。
それにしても般若の様に睨んだ顔を浮かべるババアとおっさんの青ざめた顔色を見る限り、2人は顔見知りのようだ。
「あの金澤ミホが立てこもっているってんで来てみれば…。私としたことが、呆れてものも言えない。50過ぎてまだそんな馬鹿げたことやってるのか?」
「え、知り合い!?おっさんとババアって…その、愛人関係ってやつか?」
「…馬鹿言うな!それに一緒にいたのは貴様か!?須藤!」
違うのか。その大きく露出した胸といい2人の風貌を見ると"それ"にしか見えないんだけどな。
「えーっとね、ジュンイチロウさんの本名は戸越ジュンイチロウ。係長の…」
「えぇ!じゃあ、苗字一緒だから夫婦なのか!?」
「ふざけるのも大概にしろ!違うと言ってるだろ!親子だ!」
「…親子?でも全然似てないぞ?」
「私はこいつの養子だ」
じゃあ、戸越のおっさんが僕と最初に会った時に言っていた『娘』ってこのババアのことだったのかよ。
「そう。ジュンイチロウさんは、係長の親父さんで警察省本部で警察官をやってるんだ」
「そうだったのか。だからあんな体術を…。じゃあ改めて…僕を助けてくれてありがとうございました」
「そんなこたぁ、容易いことさ。でも、ミナト君、君には叱らなきゃいけない事山程あるな。今度からは自分が業使いだからって調子に乗るんじゃないぞ。俺や乙神君がいなかったらどうしたんだ。敵が違ったりタイミングが悪かったりしたら、本当に君だけじゃなくてあの場にいた全員殺されてたのかもしれないんだぞ。先のことも考えて行動しなさい」
そうだ、おっさんの言う通り自分の力を過信しすぎていた。僕だったらもっとできる。僕だったら何でもできるって調子に乗りすぎていた。
おっさんやレイがいたから良かったけど、いなかったら僕のせいであそこにいた全員殺されていたかもしれない。そんな、もしもの世界を考えるだけで身体が震え恐ろしくなった。
「は、はい。…すみません」
「身の程もわきまえなさい」
「はい…」
「ただ、君の正義感というものは人を惹きつける何かがあるな…」
このまま説教続きかと思ったら、おっさんは無精髭の生えた顎を擦りながら微笑んだ。
「その心は…ずっと持っててくれよ…」
「―――――はい!」
僕は自信に満ちた威勢のいい返事をした。おっさんが望んでいた通りの山をも海をも通り越すような大きい大きい返事だった。
今日の今まで、”今”は自分なりの仁義を通すことが楽しい。”今”は楽しいって、そればかり言ったり考えたりしている自分がなんか気に入らなかった。今は楽しくてもいつか「楽しくない」とか「ああ、やっぱやらなきゃよかったな」とか、そんなこと思っちゃうかもしれない。それが怖くて将来に不安ばかりを抱いていたけど、この言葉を聞いた瞬間に「ああ。でもやっぱり楽しいな…」って思える気がした。
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