第15話 実技試験
実技試験は順番で一人ずつ行われる。自分の能力を試験官の前で示し、ランク4以上の能力があると判定されればほぼ確実に合格だ。もしもそれ以下だったら筆記の内容と考慮されて合格か不合格か判定されるらしい。
今は花之木がこの扉の先で実技試験を受けていて、僕は待機中だ。
そして10分が経った頃、花之木が扉から出てきた。駆けつけたが顔は憔悴しきってて真っ青だった。
「おい、花之木?どうだったんだよ」
結果なんて花之木の顔から分かるのに、僕はこの世で最も惨い事をしている。そう思った。
「…ごめん!ダメ…だったの…」
この扉の先で何があったのか知らないが、花之木は瞳に涙を浮かべていた。僕はそっと彼女を励ますように肩に手を置いたが、その手を振り払って廊下を駆け抜けていった。
やっぱ声なんて掛けようとしなきゃ良かった、僕って空気が読めないな、と思いやりのない自分がもっと嫌いになった。すると、扉からバインダーを手に持った試験官が声を掛けた。
「次、2番、須藤ミナト。入れ」
レイによれば実技は自分のありのままを見せれば大丈夫だとか言っていたけど、具体的に何をどうすればっていうんだ。部屋に入るとスーツを着た大人達が僕を囲っていて、緊張しろと言わんばかりの異様な光景だ。ただ、コンクリートに囲われたこの空間は学校の体育館ぐらいあって思いっきり動けそうだ。
高得点が取れるはずのない筆記や花之木との今さっきのやり取りもあって気分が最高潮とは言い難い。
すると、何故か向こう正面に刀を背負ったレイが立っていた。まるで、この瞬間をずっと待っていたかの様に。
嫌な予感がすると、試験官は天と地がひっくり返るような言葉を口にした。
「あなたは八王子警察署、乙神巡査と試技をしていただきます」
僕は動揺するほか無かった。そりゃそうだ、今までずっと試験官の前で自分の業を見せびらかせば合格するんじゃないかと思っていたからだ。
「は、はぁ!?それどういう事だよ!レ、レイが僕の試験相手だなんて聞いてない!」
「実技試験での試験相手は申請が可能です。彼は自分からあなたと闘いたいと事前に申請してきました。もしあなたが嫌だというのなら通常の実技にしますが…」
僕は考えた。僕がレイと戦って勝てる見込みがあるのか。この状況はピンチなのか、それともチャンスなのか。
―――――――でも、面白いじゃないか!
「出来るかわからないけど、これはレイからの挑戦なんだよな…。面白い。やってやるぜ!レイと戦ってやる!」
「ふっ、いい心意気だ」
「レイの方こそ僕が強すぎて泣きべそかいても知らねえぞ?」
僕はスカした悪い笑みを作った。
「―――――では始めっ!」
出たとこ勝負だ。やってやる。
「はぁ!ガイァ…」
僕が業名を叫ぼうすると、レイは容赦なく僕の顔面に蹴りを入れた。
「うあああああああああああ!」
容赦ない、鼻が折れる勢いだったぞ。
狂犬のアンドロイドと戦っていた時からそうだが、人間には到底無理な攻撃力、素早さ。こいつ、体術だけだったら断然人間のババアより強い。これがアンドロイドの力ってやつか。この蹴り1つだけで、僕とレイとの実力差を思い知らされた。
「ただよ、こんなもんで挫けててたまるかっ!まだまだっ。―――ガイアッ!」
親指を押して業を発動できた。だが、前と同じ生ぬるいアヒルの人形が拳の上に現れただけだ。自分の思い通りにいかなくて腹が立つ。そして僕は強く踏み出してアヒルの人形をレイの足元に向かって投げた。
僕は何が何でもこの試験を突破してやる。将来は専属能力者になって、沢山の人を助けなきゃいけないんだ。ただそれだけなのに、何故高い壁が立ちふさがる。たとえ新しい壁を打ち破ってもその先にはもっと高い壁が待っている。でも、この壁をぶち壊すのはお前にしかできないだろと、気合を入れなおし僕は自分の頬を叩いた。
「―――――おっしゃあ!」
「あれ、気合の入れ直し?だけど、もう遅いよ」
僕は、何も考えず猪突猛進に突っ走る癖がある。だからピンチの今こそ、冷静になって考えるんだ。レイは飛び道具も何も持ってないから近づかなければいい話。一定の距離を取って追い詰める作戦でいくこうと心に決めた。
そして、ゆっくりと深呼吸して瞳を閉じ、心の中でどうやってレイを倒すのかイメージする。
「目を閉じてどうしたの?諦めた?」
この前みたいに閃光弾のようなものを発生させるか。だが、それは派手さに欠ける。それだったら、空の彼方に突き飛ばせ。そして最後にガッツを決めよう。
「――――ガイア!」
僕が親指を押すと、大きな空気の塊が僕の周りに吸い寄せられ集中すると、勢いよくレイに向かっていった。彼は僕の力を甘く見ていたようだったけど、一何が起こったのかも理解できずにその重い体は衝撃波によって飛ばされ地面に転がった。
「あれってもしかして空気砲か?やったぁ!」
事前にやると決めておいたガッツを決めた。やれば僕もできるじゃんと、この一撃が自信にへと繋がった。
きっと、今のは新しい業なのだろう。100パーセントイメージ通りというわけではないけど、中々いい線行ってると、自己評価は高めだ。
もしかして、僕の業は完全なランダムではなく、心の中で強くイメージすればその能力が使えるんだろうか。狂犬のアンドロイドと戦った時もそうだった。あの時はきっとレイを助けたいという思いが力になったんだ。これだったらいける。ババアにも勝てちゃうかもしれないと天狗になっていた時だった。
「痛え…!」
僕が優越感に浸っていると、肩に何かが激突した。砲丸を勢いよく当てられたような猛烈な痛みだ。
レイ、一体何を投げつけてきたんだ。僕は後ろを振り返った。そこにあったのは今さっき僕が業でテレポートさせてきて怒り任せに投げつけたアヒルの人形だ。しかも、あまりの衝撃で風船のように破裂してしぼんでいる。
僕は初めてレイの強さの実体を見せつけられこの男がどれだけの危険人物なのか初めて知った。そして、1000年前の古代人が残した技術を恨んだ。
「ミナト。俺を楽しませてくれるんじゃなかったのか?まだ俺、一割くらいの力しか出してないけど」
この男、爽やかな顔して舐め腐りきった態度取りやがる。
「ぼ、僕なんか、まだ1パーセントの力も出してないもんねーっだ!」
強がったが、本当はもう100パーセントの力を出しきっているのでもう対抗策はない。今から普通の試験にしてくださいって土下座して頼み込むのは反則か。
「――まぁ、須藤もこれで終わりか。巡査相手だ、どうせ負ける。巡査は秘めた力を持っていると抜かしていたがこの試合を見る限りそこまででも無いな…。だが須藤、貴様といた数日間悪くは無かった…」
ババアは2階の観戦席から「負けろ。負けは決まってるんだよ」って馬鹿にしているみたいに僕を見下ろしていた。もう最悪だ。
だったら見てろ。今にもその女王の玉座から引きずりおろしてギャフンと言わせてやると、僕は歯を食いしばり覚悟を決め、氷のような視線のババアと目が合った瞬間だ。
「ぐっ、はぁ…」
レイは首を両手で押さえたとたんに床にバタンと倒れ、這いつくばって蛇のようにグネグネを体を捻りながら悶えた。この短い間に何が起こったか分からない恐怖と同時に、こんな見苦しいレイの姿を見たのは初めてだったから心底ビックリして体が動かなくなった。
「――――何!?」
「――――巡査どうしたんだ!今すぐ試験を中断しろ!須藤!何をしたんだ!」
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