第2話
死にたくない。だから必死に学校で常識を学んだ。先生やクラスメイトに、なにが正しくてなにがダメなのか、聞いて回った。異様なその姿に、クラスメイトからはいじめられるどころか距離を置かれていつもひとりぼっちだった。
家に帰れば娘の義務と言われて使用人に混じって家事をした。まだ子どもの奏海は失敗が多く、そのたびに叱責が飛び、暴力がふるわれた。
浩嗣はそれを知っていても止めず、奏海の存在はないも同然だった。
彼と奏海の母は政略結婚だったというから、愛がなかったのだろう。その娘に愛なんて持つはずがないのだ、と今ならわかる。
世間体があるからか、大学までは出してもらえたものの、小遣いがなくバイトもできず、スマホも持たない奏海には友達はできなかった。
そうして大学を卒業しても独立はおろか就職すら許されず、二年後の現在、奴隷のようにこき使われている。
「さっさと淹れ直して来なさいよ、グズ」
「申し訳ございません」
頭を下げ、空になったコップを手にしてキッチンへ向かう。
もしかしたら奴隷のほうがマシかもしれない、とすら思う。優しい持ち主がいれば今の自分よりよほどマシな状況に違いないから。
こんな思考は間違っている、と思いながらも止められない。なんにせよ、今よりマシな状況になるのなら、奴隷でもいいと思えるくらいには辛い。
お湯を沸かしながら、ぼんやりと先程の罵倒を思い出す。
あやかし以下と罵るのは、きっと違法だ。現在はあやかしにも人権があると認められていて、見下すことは許されない。
かつて、あやかしは存在を認められていなかった。
数十年前、隕石が落ちたのをきっかけに、あやかしがあちこちに姿を現し始めた。かくりよとこの世が重なったのだ、という説を唱える学者もいる。
最初は混乱したものの、いつしか共生への道を進み始めた。
アイスティーを淹れ直して運ぶと、リビングには書斎から出てきた父がいた。いつの間に来たのか、奏海にはわからなかった。
社長をしている浩嗣は久しぶりの休暇であったのだが、大事な商談があるとかで、さきほどまで部屋で電話をしていたのだ。
紅茶が人数分に足りてない。すぐに淹れて来ないと怒鳴られる。かといって淹れに戻ると遅いと罵られる。どう言い訳しようかと悩みながらリビングに踏み入ったときだった。
「奏海か、ちょうどいいところにいた」
珍しく機嫌のいい浩嗣に、体がこわばった。
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