人とAIが、謎を解き、関係性を繙いていく。
- ★★★ Excellent!!!
皆さまは、シンギュラリティという言葉をご存知でしょうか。「技術的特異点」とも呼ばれるこの言葉は、自律的なAI――すなわち人工知能が、自己フィードバックを繰り返し行うことで改善を図り、人間の知能を超越する瞬間が訪れる……という仮説を示しています。
本作では、そんなシンギュラリティが実際に起こり得るかもしれない瞬間を、四つのエピソードで鮮やかに描き出しています。
主人公は、AIエンジニアの安藤アキト。ブラック企業勤めを辞めて、フリーランスとしてWEBで仕事を得ようとしている彼の相棒は、アキトによって「メメ」と名付けられた完全自律式のドローン型AI。ちょっとダラッとした生活を送っているアキトと、ちょっと毒舌だけど有能で甲斐甲斐しいメメのコンビは、ネット上の流行から派生した『ミーム』――噂話のように、人から人へ、模倣されながら世間に拡がっていく情報のこと――によって引き起こされる怪奇現象の数々を、人とAI、それぞれの立場で考察し、解決へと導いていくのです。
事件に臨むコンビの掛け合いは軽妙で、緊迫感あふれる場面でも、必ず一回はどこかで笑かされます。そんな緩急が心地よく、読者をあっという間に各エピソードのラストシーンへと導きます。
メメの人工知能としての聡明さもさることながら、少しドライな側面を見せつつも愛嬌があるところも魅力です。独り身のアキトにマッチングアプリを紹介したり、身だしなみに気を使うよう伝えたり、自炊できたら褒めちぎってくれたり……こんな話し相手がいたら、一人暮らしの空間が明るいものになるだろうなぁと、メメと楽しげに話すアキトの姿を見ながら、何度も感じました。
メメという存在の基盤が、アキトの組んだプログラムだと分かっていても、アキトが頼りにしている相棒に、いつしか私は心を見出していたように思います。そして、そんな心を見出さずにはいられないほどに、メメのことがどんどん好きになっていきました。アキトとメメに、強い結びつきがあったように――人であれ、AIであれ、関係性を育むことに、垣根などないのだと思いました。
また、互いの時間を積み重ねていくことは、人とAIに限らず、私たちが他者と接するときにも当てはまることだと感じました。どんなときであっても、日常を丁寧に営み、誠実な態度で世界と関わっていくことの大切さが、謎を解いていくアキトの姿を通して、じんわりと胸に沁みました。寂しい気持ちに駆られたときに、日々のお守りとなってくれるような、優しい共感を呼ぶヒューマンドラマとしての側面も、とても素敵です。
アキトとメメのような関係性が存在する世界なら、いつか本当に、シンギュラリティに到達する日が訪れるのかもしれませんよね。まずは、ぜひ皆さまも、アキトとメメと共にネットミームの事件に挑みながら、そんな予感を本作で確かめてみてはいかがでしょうか。電子データの中に心の温度を感じずにはいられない、素晴らしいSFエンタメでした!