【外伝】はぐれ陰陽師・波金 ~絡繰り屋敷と泥人形の怪~
じーさん
第1話 奇妙な依頼と、偽りの亡霊
「
甲高い、しかし凛とした声が、
声の主は、黒猫の姿をした波金の式神・
首につけた小さな鈴をちりりと鳴らし
尻尾でだらしなく寝転がる主の顔を叩いている。
「あぁ? ……るせえな、鈴々。きのこ鍋にすんぞ」
「光栄ですね。その前に、溜まりに溜まったこの依頼書の山をどうにかしてください」
庵の結界が、来訪者を告げて微かに揺れる。
やってきたのは、帝都でも指折りの大店『近江屋』の番頭だと名乗る
気の弱そうな男だった。
依頼内容は、奇怪なものだった。
一年前に亡くなった近江屋の先代当主が
このひと月、夜な夜な屋敷に現れるというのだ。
家宝の茶入れを動かしたり
誰もいない廊下を歩く足音が聞こえたりと
怪奇現象が続き、現在の当主である長男・正太郎は
心労で寝込んでしまっているらしい。
「報酬は、弾む。……胡散臭え話だが、面白そうだ」
波金は、鈴々を肩に乗せ、近江屋の屋敷へと向かった。
屋敷は、主の心労を映したかのように
どんよりと重い空気に満ちていた。
波金は、当主の正太郎、家業を精力的に補佐する次男・浩二
そして先代の後妻である継母のお梅から、それぞれ話を聞く。
誰もが、亡き先代の祟りを恐れていた。
「……おかしいな」
一通り屋敷を検分した波金が、ぽつりと呟いた。
「これだけの騒ぎだってのに、この屋敷には、死人の
その夜、波金と鈴々は、先代が現れるという蔵に潜んだ。
月が雲に隠れ、草木も眠る丑三つ時。
ギィ、と蔵の扉が開き
白い着物をまとった人影が
ゆらりと姿を現した。先代の亡霊だ。
だが、波金の左目に宿る義眼が、ピカッと微かな光を放つ。
その瞳に映っていたのは、人の魂が放つ霊光ではない。
術式によって練り上げられた、泥と影の塊。
「亡霊、ね。笑わせるぜ」
波金は、不敵に口の端を吊り上げた。
「こいつは、生きてる人間の仕業だ」
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