第37話

「ダメだ、全ッ然分からん。何でこうなった?てか魔物の素材を売る話じゃなかったっけ?」


「あら、(最後までボケないとは)意外ね。あとそれは正攻法の話で、裏技かつ本命はこっちよ」


「ぐぬぬ、我にも追いきれぬのじゃが……うぅむ、恐ろしい娘じゃの」


「ふふ、(悔しがる顔を見せてくれて)ありがとう」


「で、でも何で……何で、フリーベイン公爵様がここにいるんですかぁ…?!」


「ダンジョンで手に入れた物を売る商談のためよ。ほら、ギルドではなく〝売るべき場所〟に売ると言ったでしょう。だからその相手を釣るとも言ったはずよ?」


「だからってまさか公爵様だなんて思いもしませんよぉっ!」


「はいはい、(可愛いルミアには)後でちゃんと説明してあげるわ」


 現在ディアナ達が居るのは、マグライラ含む広大な土地を治めるフリーベイン公爵家、その邸宅の一室だ。

 会話をしている四人はソファに一列に座り、対面にはずっと沈黙している男、フリーベイン公爵家当主が座っている。


「……もうよいか?」


「ええ、お待たして申し訳ございませんわ。改めて、お久しぶりですわね。ドゥリックス・エリクス・フリーベイン公爵閣下」


 貴族としての完璧な作り笑顔を浮かべるディアナに、ドゥリックスは薄く笑う。


「ああ、久しいなディアナ嬢。息災のようで何よりだ……まさかこのような形で会えるとはな」


「ええ、肩の荷も下りて元気が有り余っているくらいでして。そうそう、先日なんてダンジョンの最奥からパナケイアを拾いましたの。ふふ、驚きでしょう?」


 「何故死んだはずのお前が」という嫌味に、ディアナは軽やかに嫌味を叩き返した。

 彼女の手元には薄く光を滲ませる液体が入った、豪華な装飾の施された瓶がある。

 それを手持ち無沙汰とばかりに指を器用に動かして、マジシャンのようにくるくると弄んでいる。


 〝ソレ〟を手に入れる為にずっと奔走してきた男を前に、ディアナは嗤う。


「それも2本も。ふふ、まるで奇跡のようだとは思いませんこと?幻の万能薬が〝丁度〟2本もあるだなんて」


 くすくす笑うディアナに、ドゥリックスは全て知られていると察して、小さくも重たい溜息をついた。


「……こうも状況を固められてはどう足掻いても巻き返せそうにないな。降参だ……ふたつだけ聞きたいのだが、いいだろうか?」


「ええ、答えるかは別ですが」


「構わん。ではひとつ、何故こちらの事情を知っている?ガルディオの鳥でも紛れこませたか?」


 鳥とはスパイの隠語である。

 フリーベイン公爵としては、追放された彼女だけならともなく、同格であり政敵でもあるガルディオ公爵に情報が筒抜けなのだとしたらよろしくない。


 勿論素直に答えるはずもないだろう。

 それでも少しでも表情や態度から読み取ろうとドゥリックスはじっとディアナを見据える。


 しかし、ディアナは拍子抜けする程にこやかに微笑んだまま、ゆったりと首を横に振った。


「少なくともわたくしが知る限りではいませんわね。わたくしは帝城で知り得た情報や噂話から推理しただけですもの」


 そう告げるディアナに、ドゥリックスはしばし沈黙してディアナを見据えた後、ふっと小さく笑った。


「……『ガルディオの賢姫』は健在のようだ。まさかそれだけでここまで的確に見抜くとは」


「いえ、わたくしなんてまだまだ。仲間の力を借りてこその結果ですわ」


 どこか楽しげにも見えるドゥリックスに謙遜すると、彼は目を細めて三人を見やる。


「見知らぬ二人……どちらかが噂の『厄災』か。そして元聖女とは………フ、随分とあからさまだな」


「いえ、そのような考えはありませんわ。ですからこうして商談に来ているのですもの」


 人類最大の敵である『厄災』。現帝国皇子の婚約者によって追放された元婚約者と元聖女。

 『あからさま』に帝国に仇なす面子だが、ディアナはあくまで商談だと答えた。

 それを聞き、ドゥリックスは彼女の手にある二つの瓶を見る。


「……ふぅ。我らの30年の苦労も、『厄災』ならば数日の手間でしかない、か」


「ええ、お気持ちは察します。わたくしも心底驚きましたもの」


 嘘つけと言いたくなる余裕綽々のディアナだが、実際本当に驚いていたりした。

 過去トップクラスのパーティ連合総出でも辿り着くまでに数週間かかると聞いた50階層の上級ダンジョンを、たった2日で到着。その上攻略までするとは思いもしなかった。


「それでは要望通り商談といこう。要望は?」


「わたくし達の存在を口外しない事。マグライラ滞在を見逃す事。そしてこれ――〝パナケイア〟一本につき1000万ディア。……どうでしょう?」


「成立だ」


 間髪入れずに即答。

 これにはディアナを除く三人が目を丸くする。


「お互い実りのある商談になって嬉しく思いますわ」


「ああ、同感だ……こちらに有利すぎて怪しく思ってしまいそうだがね?」


「裏を読む必要はありませんわよ。今のわたくし達の立場からすればこれくらいが適切なのです。それに、わたくしとてふっかけるタイミングと相手くらい選びますもの」


 フリーベイン公爵からすれば非常に温い条件だが、罪を背負うディアナからすれば適正だと言う。


 この認識のすれ違いには二つの理由がある。


 一つは、条件にある「存在を口外しない事」「マグライラの滞在を見逃す」という、言い換えるなら『継続的な口止め料』に対する価値感の違いだ。


 ディアナは事を起こすまで決してバレたくないが、隠蔽や口止めをする力は手元にない。

 一方、ドゥリックスからすれば労力自体は大した事はないのだ。

 なにせ作業的には自身とビックスが口を閉ざしてディアナの存在を見て見ぬフリをするだけ。


 もしこれが「フリーベインの名において匿え」であれば大きく話は変わる。

 追放の刑に処されたディアナを匿えば罪を問われるからだ。

 しかし交渉内容はあくまで滞在許可と口外しない事のみで、匿う訳ではない。


 その後バレたとしてもドゥリックスが知ったことではないのだ。つまり知らんぷりをして罪からのらりくらり逃げればいい。

 勿論屁理屈でしかないが、それが出来る権力と手腕をドゥリックスは持っている。


 そして当然それはディアナも理解している。

 しかし、ディアナからすればそれで十分なのだ。



 もう一つの価値観の相違は、パナケイアの価値だ。

 ドゥリックスが30年かけて手に入れようとして、今日まで手に入れる事が叶わなかったパナケイア。


 別名――万能薬である。


 酷く希少なこのアイテムは、上級ダンジョンの最奥で手に入るといわれている。

 ドゥリックスはその言い伝えに縋り、今日まで奔走してきた。

 それこそ無謀と言われたダンジョン都市まで作り上げて、だ。


 対して、ディアナからすればナギやルナがいれば継続的に手に入る代物でしかないのだ。

 なんせ二日で2本手に入れているし。



 これらを踏まえて、ディアナは帝国の重鎮であるドゥリックスに無茶な要求は控える判断をしたのだ。

 魑魅魍魎のはびこる宮廷で長く君臨し続ける猛者を相手に余計な真似はしない。


 自分にとって充分な利益があればそれで良い。

 お互い『良い商談』で済むラインを狙ったのだ。


「ふ、そうか。……しかしこうして話してみると、あの女狐如きに追いやられたのが不思議でならんな」


「いえ、わたくしの実力不足ですわ。ただあえて言い訳をするなら、わたくしには手足がおりませんでした。家族すら半ば敵対関係でしたもの」


「……なるほどな」


 そう頷くドゥリックスはナギ達に視線をやる。

 老練の鋭い視線にも顔色ひとつ変えない少年と獣人に、彼は歳を感じさせない剣呑な笑みを浮かべた。


「ふ、くかかかッ!今の世代が羨ましい、こんな面白い相手とやりあえるとはな!」


「……噂に違わぬ戦好き(の変態)ですわね…」


 有名な武家であるガルディオにも負けぬ実力者が彼、ドゥリックスだ。

 数十年前はダンジョンに槍一本持って潜り、貴族だけではなく冒険者の間にもその名を轟かせた猛将だと聞く。

 

 今でこそ大陸最大国家として比較的平和な帝国だが、当然そこに至るまでは多くの戦があった。

 ドゥリックスはそんな激動の時代を駆け抜けた一人でもあるのだ。


「ふっ、まぁいい、商談は終わりだ。もう関わりたくもないが、また『お互い実りある商談』があるなら呼ぶが良い」


「そうですわね、その時は最初にお声掛けさせてもらいますわ。……それと、ご回復をお祈りしております」


 ディアナの返事にドゥリックスはこの場で初めて柔らかい笑顔を浮かべた。

 そしてディアナからパナケイアを受け取り、彼は退室した。


 その後入れ替わるように入室した使用人により、少しのんびりしても構わないという旨を伝えられ、ディアナは言葉に甘える事にする。

 理由は単純に、仲間への説明は周りに聞かれないこの場で済ませるべきだと考えたからだ。

 当然、滞在の許可を出したドゥリックスもそれを見越しての事である。


 熟練の使用人によりすかさず用意されたお茶と茶菓子をつまみ、ディアナはさてと切り出す。


「答え合わせをしましょうか。でも今の会話で大体は分かってるでしょう?」


「んー、まぁふわっとなら」


「我もじゃな」


「あたしは全然分かりません〜……」


 半泣きのルミアを、無言で同時に撫でる三つの手。

 大抵の愛情表現は受け止められるルミアも、これには流石に照れた様子で縮こまった。


「じゃあ一から説明するわね」


 顔の赤いルミアに優しく告げて、ディアナは言葉を並べていく。


「その前に、まずナギとルナにはひとつ欠けているであろう情報を先に言うわ。現当主ドゥリックス公爵の娘は幼い頃から重い病を患っているの。

 表向きは病弱程度という形だけれどね……すぐどうこうなる病ではないし、一時は学園にも通っていたくらいよ。けれど症状は年々悪化していき、最近では寝たきりに近い状態なの」


「「あー」」


「分かったみたいね」


 答えに辿り着く為の欠けていたピースが埋まって納得した様子の二人に、ディアナはくすりと――若干勝ち誇った――笑みを見せる。

 そしてすぐに柔らかい笑顔に切り替えて、ルミアに視線を戻した。


「ではルミア。まずダンジョン都市マグライラはフリーベイン公爵が周囲の反対や侮蔑を押し切って作ったの。理由は以前ルナが言っていたように、冒険者ではなく自分で管理したいから」


「はい、覚えてますっ」


「一般のダンジョンでは入手したアイテムは誰の手に渡るか分からない。けれどここマグライラなら話は変わるわ。冒険者ギルドは勿論のこと、ギルドと比べても高額で買い取る商人や、高額商品を売り出せるオークション……それらは全て、欲しいアイテムが出た時にフリーベイン公爵が必ず手に入れる為に根回しされているの」


「それが、パナケイアですか?」


「ええ、そうよ。彼は万能薬パナケイアを手に入れる為に上級ダンジョンを囲い、パナケイアが出た時に確実に回収できる環境を用意する……ただそれだけの為にマグライラを作ったの」


 それは金銭的に余裕のある大貴族だからこその決断。それでも危険はあったが、フリーベインは成し遂げた。

 狙いは金では買えない幻の秘薬パナケイア――そして愛娘の治療だ。

 もっとも、現在では十分金を回収出来る街へと育っているが。

 

「ちなみに裏組織の本当のボスもフリーベイン公爵よ」


「えぇえええっ?!」


 驚愕するルミアにディアナは優しく告げる。


「裏組織を持つなんて貴族の嗜みよ?」


「待て待て、ルミア信じるからね?」


 教育に悪い、と慌ててツッコむナギに、ディアナは楽しげに笑う。


「ふふ、(半分)冗談よ。あのねルミア、裏組織はマグライラが出来てすぐに現れたの。そして利益を掠めようと手を出す貴族達を追い払ってきたわ」


 そしてその強さ故に手出しするにはリスクとメリットが釣り合わないとされて、いつしかマグライラはアンタッチャブルとなった。

 

「でもおかしいと思わない?貴族を追い返す力があるのに、冒険者や平民達は普通に生活している事に」


「………あっ」


「そう、彼ら裏組織はフリーベイン公爵が用意した〝対貴族用の組織〟よ。表立って公爵家の戦力で追い返せば争いになるもの」


 自分の手を汚さず目的を叶えるという――言い方は悪いが、ある意味真っ当な――貴族らしい方法とも言える。


「まぁ裏組織が成熟した今と違って、初期はそんな危険な役割を担う変わり者は少なかったのでしょうね。そこで目をつけたのが表向きのボス、ビックスよ」


 そこでルミアはディアナが彼に告げた『元騎士の弟』という言葉を思い出す。


「彼の兄は騎士だったの。でもとある貴族によって毒を盛られ、かろうじて生き延びたものの身体が不自由になり、今は退役して……毒を盛った貴族に見つからないようスラムに身を隠してるの」


 これは帝城勤務だった頃に調べた情報だ。

 ちなみに毒を盛った貴族は既にディアナ主導でこっそり処分していたりするが、それをビックスに言う気はないらしい。


「だからビックスは兄の毒による後遺症を治す為にパナケイアを求めていた。そして上級ダンジョンの噂を聞きつけてマグライラに訪れた彼を、公爵がスカウトしたのでしょうね」


 しかしビックスでは攻略できなかった。

 だから誰かが攻略した際に優先的にパナケイアを回す代わりに、外からの攻撃に対する迎撃装置となった――というのが経緯だ。

 

「あとは見ての通り、パナケイアを求めてやまないフリーベイン公爵にナギ達が確保してくれた2本のパナケイアを持って交渉したの」


「ほぁ〜……ディアナ様、どこまで知ってたんですか?」


 ほけーっと感心した様子のルミアにディアナはくすりと笑う。


「ふふ、口が空いてるわよ。 知ってた事ねぇ……フリーベイン公爵に病気の娘が居た事と、ビックスの兄が元騎士で毒殺されかけた事。あとはその兄がマグライラにいる可能性が高い事かしらね。それくらいよ」


 そう言ってさくりと茶菓子を口にするディアナ。

 そんなディアナとは反対に、ルミアのみならずナギとルナも驚愕に目を丸くした。


「えっ?えぇっ?! じゃあ、えっと、パナケイアが目的だったとか、裏組織がフリーベイン公爵の手下とか、肝心なところ全部予想だったんですかっ?!」


「そうね。ふふ、もし外れてたら今頃『厄災』対フリーベイン公爵総戦力の戦争になってかもね」


「はわわわっ……!」


 ちょっとした冗談――というには可能性は高めだが――を聞いて慌てるルミアを見て、楽しげに笑うディアナ。

 そんなルミアとディアナに、ルナは感心と呆れを混ぜ合わせた顔で苦笑する。


「とんでもない娘じゃのぉ……それに我らを揶揄ったじゃろ。何が表と裏の抗争じゃ、不安を無駄に煽ってくれおって」


「ふふ、ちょっとイタズラしたくなったのよ。とは言え、もしわたくしの予想が一つでも違えば、先程言った方法で稼こうと思ったのは事実よ?」


 もしフリーベイン公爵とビックスが繋がってなければ。

 もしフリーベイン公爵の目的がパナケイアでなければ。

 もし上級ダンジョンの最奥にパナケイアがなければ。


 そんな『もし』を一つ残さず全て手繰り寄せられなければ、予定通り無茶な稼ぎ方をするしかなかった。

 しかしそんな奇跡のようにも聞こえる話をしながらも、ディアナは余裕そうに微笑むばかり。


「……そうならん自信があったようじゃがの」


 確信、あるいは自信があったのだろう。

 そう見抜き、いっそ呆れた様子のルナにディアナは戯けるように肩をすくめる。


「いやぁ……うちの司令塔やべぇわ」


 全てを聞き終えたナギは、ただ一言感想を口にする。

 もはやそれ以外に言葉にしようがない、と手放しに賞賛した。

 その言葉を受けて、ディアナはどこか嬉しそうに目元を柔らかく細めて。


「そう言ってくれて嬉しいわ……でもごめんなさい、確信なんて全然なかったわ」


 けろりとした顔で告げた。


「え?は?はぁあああっ?!え、嘘だろ?!」


「これで外れてたら危うく黒歴史だったわ……ふぅ」


「ふぅじゃねぇよ!う、うちの司令塔やべぇわ!」


「あら、さっきと同じセリフなのにニュアンスが違うわね。遺憾だわ」


「いかんのはお主じゃろ!って神獣に何コテコテのツッコミさせてくれとるんじゃ!」


「仕方ないじゃない。ルミアにかっこいいところ見せたかったのよ。でもばっちり決めてやったわ、おーっほっほ!」


「清々しいまでに個人的理由じゃな?!いやしかしルミアも今聞い……ってこやつちゃっかり耳塞いどる!」


「そもそもナギがいけないのよ?いつボケるのよ」


「は?こいつ正気か?この場面でボケ待ちしてたとか恐怖すら覚えるんだけど……」


「ずっと待ってたのに……寂しかったわ」


「時の場合によっては胸きゅんのセリフが、こんなに腹立たしく聞こえたの初めてなんだが」


「まぁルナには悔しそうな顔をさせれたし、よしとしましょう」


「よしじゃねぇんじゃが?我この世界に来て初めてキレそうなんじゃが?」


「ご、ごめんなさい……」


「む、むぅ……まぁ許してや「いや待て。さも弱々しく項垂れてるけど、よく見たらちょっとニヤついてるぞ」


「ふふ、バレたわ」


「司令塔変更なのじゃああ!」


 扉の向こうで、ドゥリックスが「私はこれに転がされたのか……」どこか哀愁を漂わせていたのは、まぁ別の話。

 

 ちなみに。

 ディアナの計算では八割以上の確率でいけると踏んでおり、かなり自信はあったのだが……あえて危うげだったと思わせる発言をしたのは、ナギ達と馬鹿話をしたかったから。

 勿論、その事実は今後ずっと言うつもりはなかったりする。





「さて、これで資金は手に入れたわよ」


「おいおいさらっと話戻そうとしてんぞ」


「おん?我の苛立ちはどこにぶつければ良いのじゃ?のうルミア、我らの司令塔なんじゃがやはり変え――」


「はいっ!ディアナお姉様は最高の司令塔ですっ!」


「……だなっ」「……じゃなっ」


 という訳で、何にせよ目的は果たした。

 加えてマグライラへの滞在もしやくすなり、ちゃっかり500万ディアの生活資金も手に入れた。

 少々お茶目な発言はあったが、確かにディアナあってこその結果には違いない……と、ナギとルナはため息一つで切り替える。


「……ふぅ。まぁ確かにディアナのおかげでルミアと冒険者できるな。来週には装備も揃うし、それまでは登録だけ済ませてのんびりしとこ」


「えへへへ〜!楽しみですっ!」


「だよなぁ、俺も楽しみだ」


 きゃっきゃしだした少年と幼女を眺めてから、ルナはふと気になった事を口にする。


「そういえばナギよ、お主以前に冒険者ギルドへの登録は避けておったろ?もう構わんのかの?」


 これまでずっと避けてた登録は、個人情報を残したくない為だった。つまりクラスメイトにバレる可能性を減らす事が目的だったのだが――


「いやもうクラスメイトの前まで行ったし、それでバレたの一人……いや多分三人か?とにかくそれだけだったし、なんかもういいかなって」


「見抜いてくれなかったから拗ねとるのか?」


「流石にそれはねぇよ。 むしろ逆でさ、目の前で見ても見抜けないような奴らに警戒するのがアホらしくなった」


 そう、これだけ警戒していたのに拍子抜けした形だ。

 やる気が失せたとばかりに肩をすくめる。


「おまけにあの頃は惰眠生活目的でひっそりしときたかったし。でも今はディアナさんの貴族復帰のお手伝いとか、ルミア希望の冒険者したりとかやる事いっぱいだしな」


 だからクラスメイト達を警戒する手間なんてかけてられないと笑う。

 ルナもそれならいい、と笑い返した。


「ではマグライラに滞在しつつ、しばらくは冒険者をする事で決定ね。さて、その前にお小遣いをあげるわ」


「「わーい!」」

「おぉ、楽しみじゃの」


 今回得た余剰金の500万。それをディアナの采配により一人100万ずつ分けて、残る100万はパーティ資金に充てられる事となった。

 ちなみにナギがこれまで支払ってた生活費もパーティ資金から返済された。


「え?お小遣い100万です?!お小遣い100万ですか?!100万ってお小遣いと呼んでいいです?!」


「ほぉ、これだけあれば肉料理の店を制覇できそうじゃの……!」


「マジかよ。人生初の大金だけど……使い道思い浮かばねぇなぁ」


 100万ディアを手に震え、つい三回確認しちゃうルミアと、肉料理を想像してごくりと唾を飲むルナ。

 そんな二人を見て資金繰りは出来るのかと不安になるも、まぁそれも経験かと放置を決めるディアナ。

 ナギはといえば、地球で培った節約精神のせいで必要物資の調達以外は全額貯金する気満々である。


 こうして無事マグライラでの生活基盤を構築した4人は、装備完成まで穏やかな生活を送る事が出来たのだった。

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