第47話 秋津の病室
別の個室には秋津文綿がベッドのリクライニングを利用し、上半身を起こして、窓外を眺めていた。
ドアがノックする音を反響させ、秋津が返答する前にそれは開いた。門野、長木、弾正がぞろぞろと入って来た。約一名まだ顔色が悪く車いすを弾正に引いてもらっていたが。
「気分はどう?」
「妙に清々しい……こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけれど」
「そんなことはないわ」
「目が覚める前に夢を見たの。門野君もいたわ。神社よ。霧がかかった。私はそこにいようと思ったのだけれど、夢の中でも門野君に説教されたわ」
「俺も夢見た。それと同じ。てか、説教じゃねえよ」
「フフ、そうだったかしら。でもそれでね、歩み出そうって決めたの。そしたら、今度は病室にいるものだから、どっちが夢でどっちが現実なのか」
「それは夢ではなかったかもしれませんよ。肉体は昏睡状態でも意識がそこに行っていたとも考えられますしね」
弾正は門野の車いすから手を離すと、ベッド脇に立った。その表情の引き締まり方から次に何を言い出すのかは門野にも長木にも分かっていた。
「秋津文綿さん、一連の事件に関する事情聴取及び厳罰が待っています。覚悟してください」
弾正の手がこぶしになっていることを二人は目ざとに見つけていた。役職を全うしようとしているのだった。
秋津は静かに頷いた。
「ご迷惑をおかけしました」
弾正から今後の進め方――病状の回復(と言っても卜部に意識が回復するまで日数はかかるかもしれないが、目覚めてしまえばすぐに身体は良くなるだろうとは言われていた)、事情聴取、それに基づいて処罰が下される――と言った手順が話された。
「あの……長木さん」
これだけは伝えておきたいといった顔つきで秋津が話しかけた。長木は、それを小首をかしげて、聞こうとする。
「弟さんのことだけれど」
その瞬間、長木の表情が変わった。強張ったのだ。
「私、いえ、鵺でもないわ。あそこに行ったのは昨日が初めてだから。それに鵺はいつも私とともにいたから。単独で行動することはないわ。鵺は……そう、プライドが高いから陰になって姿を見せないってことはしない。その威厳ある姿は見える者には包み隠さず見せるとか言ってたこともあるくらいだから」
長木の表情が柔らかくなる。穏やかな笑みがつくられる。
「ええ、ありがとう。それとね、昨日……て言うか、今朝だけど、鵺と触れて分かったの。あ、違うなって。アイツはもっと禍々しい感じがしたから。それに私はね、あきらめるつもりはないのよ。さっきも言ったけどね。この仕事をしていればいつか見つけられるんじゃないかって思うし、一人じゃないしね」
長木は細い目をして門野と弾正を見やった。
「じゃ、僕たちはこれで。早く良くなってください」
間がもたないと思ったのか弾正から退出の言葉が漏れた。
「はい。ありがとうございます」
三人が病室を出ようとドアの所で振り向くと、秋津は一つ会釈をした。ドアが閉まる直前、ちらと見えた秋津の姿は、また窓外を見つめているものだった。
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