第15話 通話

 卜部の言葉を風紀委員会室にいるときに思い出していた。

「あなたの力が必要になる時が来る。それも遠くない日に。弟さんのこともきっと…」

 長木は一人の夕食を済ませた後、自室で携帯電話を取り出した。数秒間その画面を見つめてから、意を決したように、発信した。メールではない。短いコールで相手が応答に出た。卜部である。長木は今日あったことを話した。

「あれはそういう話だったのね」

 弾正と同学である。誰が何をしようとしていたのか了解したようであった。

「この前言われたことを思い出して」

「私に言わなくても気持ちはもう決まっているんでしょ」

「はい、引き受けようと思います」

「そうね。何かあったら連絡を頂戴。弾正さんにも口添えをしておくわ。こき使わないようにと」

「よろしくお願いします」

 長木は少しの可笑しさを込めて頭を下げた。あの飄とした弾正が卜部に諭され言いくるめられている場面が、コミカルに思えたからである。

 電話の後、妙な清々しさに、長木は我ながら驚いていた。そして、カラーボックスの、あのパワーストーンの置かれた容器のさらに壁側に立っているフォトフレームを手に取った。母と自分、そして弟とが写っている。あの事件の朝、玄関先で撮影したものだ。

「きっと見つけるからね」

 一言の後、フォトフレームを元に戻し、窓から外を眺めた。街の明るさでわずかにしか見えない星々を浮かべる夜空に、長木は先生のまなざしを向けた。

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