需給のバランス ラーメン屋

一筆書き推敲無し太郎

第1話

経済学の範囲で私はラーメン屋を開く。メニューは1種類でサブメニューすらない裸一貫で開店するラーメン屋だ。私の借りた立地は住宅地に面していて人情に満ちている物件だ。最初期は物珍しさと開店祝いを兼ねて大勢の客が来る。この時にはラーメンは500円という破格の値段だ。実際には赤字覚悟である。しかし客の笑顔を拝むために安く提供する。開店から1ヶ月。私は安さではなく味に自信をもってしまった。客は私のラーメンの味に魅了されているのだと錯覚した。

これがすべての崩壊につながった。価格を750円にした。この時点で顰蹙こそあるが、顧客はまだ安いとして、今までが安かったのだとして捉えてくれるだろう。私の判断は経営の面では間違いない。近頃は小麦が高騰しているから、私のラーメンは顧客から評価が高いからと鼓舞する。一定の客は離反してしまったが、更に強固な客層として個人店を盛り上げようと奮闘していた。

明後日の方向から「どういう了見かね」

客が叫ぶ。私は即座に怒りの方向に目を向ける。“値上げ検討中“として打ち出した旗印を叩く客を尻目に私は気を逸らす。脳裏には”しょうがない・原材料の高騰・客目線では安いから・私のラーメンは味勝負である“と。客との齟齬は既に乖離していたのに気づくのが遅かった。

ラーメン一杯950円として宣伝を掛けるも客足が異様に伸びていない。私のラーメンを食べにくる客は?今まで贔屓にしてくれていたあの常連は?開店前は閑散としたただの住宅地だったのに、ものすごく賑わっていたあの頃はどこへ行ったのか?自問自答を重ねるも、幾らラーメンを改良しても、客が来なければ商売にならない。

ついには間借りしていたテナント料すら払えなくなり、密やかに閉店を迎える。嘗ての顧客が閉店の報を聞いて呟く。

「安いから食べてたんだよ。Wi-Fiもあって空調もあったから。ラーメンは二の次。云わば立ち読みのような感覚だったのに、味に拘りを見出してから客が減ったのにまだ追求できるとか言ってたな。ズレてんだ。」―――閑古鳥は耳障りだ。

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需給のバランス ラーメン屋 一筆書き推敲無し太郎 @botw_totk

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