正しいことは疲れる。だがそれだけの値打ちがある。

このエッセイは作者である碧 銀魚さんの行った〝私人逮捕〟の状況と、犯人を捕まえた後に抱いた感慨が書かれています。

悪いことをした人を捕まえる。
なるほど、それは書きたくなる題材でしょう。
日常にはない、しかも立派な行いなのです。
書かれた文章のあちこちから碧さんの誠実な人柄が垣間見えます。

表彰されるような事柄なのに、誇ることはしない。
自分と同じことをするように、他の人へ勧めない。
捕まえた者を思い、哀れむ。

こんな筆者だからこそ、正しいことができたのでしょう。
躊躇いや含羞のない正論は、暴力にもなり得ます。
正しいことをするのなら、常に客観視しなければならない。
きちんとした事をするのは、難しい事なのでしょう。

碧さんの記された因果応報の象徴でもある〝死神〟の意味合いが、読後しばらく胸に残りました。

迷いや惑いのなかで、それでも決断したこと。
それはたぶん。
やるべきことなのだと思います。

本作は、やるべきことを行えた記録です。
そして、不法不正の割に合わなさを鑑み、通り一遍の正義正論ではない心情が記されています。

心に残るエッセイです。
どうぞ、御一読ください。

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