格闘魔法少女リゼル

モンブラン博士

第1話

控室から闘技場へつながる通路を靴音を鳴らしながらリゼル=フィーガレットは歩く。

腰まで伸ばした金髪を吹き抜ける風に靡かせ青い瞳は前だけを見据えて好戦的に笑う。

とてもつばの広い三角帽子もイヤリングも半袖の衣装にキュロットも、先が軽くカーブを描いた靴も身につけている全てが血のような真紅で統一されている。

彼女は今日も血の雨を観客席に降らせるべく闘技場へと赴いた。


『現れたぁ! 年間無敗の絶対女王! 格闘魔法少女 リゼル=フィーガレットオオオッ』


実況により名が呼ばれると会場に割れんばかりの拍手と歓声が起こった。

リゼルはこれから起きる戦闘に思いをはせて意図的に口角を上げる。

反対側の入り口から現れたのは巨大なゴーレムだった。

自らの十倍以上もの背丈の巨人を前にしてもリゼルの笑顔は崩れない。

誰が相手でも自分が勝利するという余裕が与えている笑みなのだ。


『構えてッ!』


審判の合図と共にリゼルはルビーが先端にはめられた黄金の杖を召喚し棒術のようにクルクルと回しながら勢いよく地に叩きつけた。


「観客たち! 私が今日も血の雨を降らせてあげる!

そして世界中の魔術師たち、いまこそ拳を握りなさい!」


リゼルの言葉に再び観客が沸いた。

試合開始。

岩と砂で構成された強固な体から放たれる拳は一発で人体を吹き飛ばすが、リゼルは慌てることなく杖でゴーレムの攻撃を捌いていく。

逸らされた拳は地面に当たって亀裂を生じさせる。


「力だけはあるみたいね。でもそれだけじゃ私を倒せないわよ」


打撃を後方に飛んで回避しつつ杖の先端から炎を発射して牽制。

それから杖の先を大鎌に変えて真っ向勝負に挑む。

細腕で身の丈ほどもある鎌を軽々と振るってゴーレムの両腕を切断。

腕を失って動揺したのか動きが硬直した彼に踵に炎をまとって跳躍すると脳天に踵落としを炸裂させる。


「グオオオオオオオオオオオ……」


脳天から真っ二つにされたゴーレムは断末魔と共に消滅し、リゼルの勝利に終わった。

汗ひとつかかずにっこりと笑うリゼルに会場中から戦闘を称える拍手が鳴り響く。

汗をかくまでもないほどの楽勝だった。

観客の声援に応じながら控室へと消えていく。

通路を歩きながら、リゼルは嘆息した。


「どこかに私と戦える強敵はいないのかしら?」


絶対強者故に対等に戦える相手がいない渇望を抱えながら、彼女は今日も観客のために血を降らせていく。

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