彼氏持ちの私に後輩女子が告白してきたのだけれど
モンブラン博士
第1話
四月半ば。桜の花びらがヒラヒラと舞い散るなかで、本田えりかは告白された。
「わたしと、付き合ってください!」
頭を下げて想いを伝えるのはひとつ下の後輩、日高未来(ひだかみらい)だ。
ふんわりとしたボリュームのあるツインテールに二重の大きな瞳。幼い顔立ちと小柄な体躯のせいで中学生にも見えるが、胸だけはやたら大きく成長していた。
制服の袖の長さに腕が足りておらず萌え袖となっている。
未来を一瞥して、男に人気の出る容姿だと思った。
愛嬌もあるし間違いなくモテるだろう。なのに彼女は同性の自分に告白してきた。
えりかは嘆息して豊満な胸の下で腕を組んで未来をみて言った。
「えっと、日高さんだったかしら? 言っておくけど私は彼氏持ちよ」
「ダメ……ですか?」
「ダメよ」
胸の前で腕を組んで瞳を潤ませる未来を容赦なく切り捨て、えりかは踵を返してその場を去る。
今日は大好きな彼氏の馬場寛一(ばばかんいち)と放課後デートがある。
新入生の女子に構っている暇などなかった。
夕方のファミレスのボックス席でえりかは気まずい思いをしていた。
平日の学生に行ける場所など限られている。えりかと寛一は食事をしながら話もできるのでファミレスに行って向かい合って食事をとっていたのだが、そこへ「相席してもよろしいですか?」と割り込み――もとい願い出たのは日高未来だった。
同じ学校の後輩の頼みを彼氏の前で断るわけにもいかず、しぶしぶ受け入れたのだが、対面に座る寛一が大柄のため怖がったのかえりかの隣に腰かけてしまった。
それから非常に嬉しそうな表情でスパゲッティを注文して、いろいろと話し始めた。
出会ってから一か月も経過していないのに同性に惚れて玉砕したかと思ったらデートの場まで駆け付けてくるこの後輩の図太さは相当なものだ。
寛一に目線を向けると彼は特に気分を害した様子もなく、ハンバーグを食べている。
「馬場先輩とえりか先輩っていつ頃知り合ったんですか?」
「俺と同じクラスで委員の仕事をする間に距離が縮まって、気づいたら付き合ってた」
「わあっ! 素敵ですねえ」
「ありがと」
素直にお礼を言う。
いつの間にか本田先輩ですらなくえりか先輩になっていた。
距離感の詰め方が尋常ではない。
運ばれてきたスぺゲッティを口の周りをケチャップで汚しながら食べる彼女に呆れつつもナプキンで拭いてあげる。ひとつしか変わらないのに保育士になったような気分になった。
「お腹いっぱいになりましたー!」
「よかったわね」
お腹をポンポンとしながら満足そうに笑う未来にえりかの口元も自然と緩む。
食べ終わったので会計を終えて外に出たところでえりかは疑問を口にした。
「そういえばあなた、部活は決まったの?」
「決まりましたっ」
「なに部に入るのかしら?」
「えりか先輩と馬場先輩の恋を応援する部です! おふたりとも、悩みがあったらこれからいくらでも私が相談に乗りますから、大船に乗ったつもりでいてください!」
制服の上からでもわかる大きな胸をドンと叩いて未来は得意げに言った。
そんな彼女に馬場とえりかは互いに顔を見合わせて笑うのだった。
これから未来との付き合いは長いものになる。
どうしてか、えりかにはそんな予感がするのだった。
おしまい。
彼氏持ちの私に後輩女子が告白してきたのだけれど モンブラン博士 @maronn777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます