第2話 難問!ボウイ好き男子

同じ駅で降りたら偶然いて、話しかけて来た、1学年上の高2の男子。

ずっといるのは、私は知っていた人。

当時の沿線?下手すると、街中でも同学年だと、1番目立つような人。


原宿や渋谷なら、モデルのスカウトが、とりあえず目に留めそうな、外見と身長。

雰囲気も大人っぽい。

後に私服姿を見たら、全く普通の高校生には見えなかった。進学校の生徒だとは、わからない雰囲気。

不思議なオーラと「俺に声かけるな!」なオーラも、出ているような人だった。

そんな人が、多分偶然だけど、話かけてきた。


「この人、ちゃんと喋るんや!」と、話しただけで驚き。

話すと、声も話し方も、超優しい。

なんなら、私は彼がお姉エかと、間違えかけたぐらい、優しい話し方。

ちょっと変わってはいるけど、めちゃくちゃ丁寧な方向に変わっていた。

そして、学校にはいなくて、ずっと欲しかった、音楽の話が出来るかもって人が、初めて現れた。

嬉しかったけど。音楽好きって聞いて。


が、クラッシックか?苦手なジャンルかも?と考えてたら、返って来たのは、まさかでもあり、やっぱりでもある、「デビット・ボウイが好き」だった。

当時の男子高校生には、どんな人たちが人気が高かったのかは知らない。

ラジオのリクエストに男子たちが、誰をリクエストしたかの記憶も無い。


全体的に人気があったのは、やはり三大ギタリストと、その周りのバンド。

ディープパープルとか、レインボーとか、色のバンド名も多く。

エリック・クラプトンは男子に人気?ジェフ・ベックは女子校にもファンはいた。ストーンズ?

クイーンは女子ファンが多かった。ドゥービーに、イーグルスは少しはいたか?

バンクもまだマイナーだったし、ヴァン・ヘイレンはまだ出てなかった。


私は、JAZZ〜フュージョン〜R&B〜レゲエ〜普通のロックや、シンガーソングライターまで、かなり幅は広く聴いて、好きだったけど。

どこにも当てはまらない、独自の路線をいってたのがボウイ。男性ファンがたくさんいたかは知らない。ファンの年齢も高めだった印象。

彼はデビューも早く、バンドとしては64年、ソロが67年。


アメリカだとフォークが、ディランが活躍し、モータウンが流行った時代からいる人で。

私はグラムロックには、詳しくはない。ボウイがこの時代に、彼が唯一のライバルと考えたのが、Tーレックスのマーク・ボランだったらしいと、後に知ったぐらい。

そのマークもこの時代には、30歳直前に、亡くなっていたのは、知っていた。


ボウイは、マイムや劇団をやってたせいか、音楽そのものより、ステージングで目立ちたい人、パフォーマーなイメージもあり。

洋楽雑誌では、かなり取り上げられてはいた。

私は聞いた瞬間は頭が、真っ白になった。「何それ?」って。

「何故そんなに、難しい感じの人が好きなのか?」だったし、「彼らしいなぁ」も感じた。

やっぱり、この人は見た目だけで、勝手に想像してた通り、ちょっと普通じゃなく、我が道を行くような人だったかと。

だから、答えはしっくりとはきた。

派手な靴下とも、全体のオーラとも整合性はある。むしろイーグルスが好きだったら、イメージが壊れたかもで。

ハードロック好きとかなら、まだわかりやすかったけど。


「知ってる?」って聞かれて、答えるのが超難問。

知ってるは、知ってる。時代的に古い曲は知らなかったりするけど、アルバムもまだラジオで流れてたから、『ジギー・スターダスト』とか、『ヤング・アメリカンズ』は好きだった。


人気もあったから、番組で流れてたから。

この2枚はわりと好きだったけど、次のこの時代の、プライアン・イーノなんかと作ったアルバムは、あまり好きでは無くて。

時期がちょうど、77年あたりから。

後に「ベルリン3部作」と呼ばれる時期。彼が話しかけて来たのが、その期間の78年の夏。



ボウイは嫌いじゃない。ても、ジギーの時代は化粧が派手過ぎて、退廃的な匂いかして。女子中学生には、ハマらない感じはあり。

自分が死にたくなっていたから、薬物とかの噂もあり、亡くなりそうな人に敏感だった時期。

自分が死にたいと考えていると、そんな傾向の人は匂った。

本当のところはわからないけど、近寄ると自分が、マイナス方向へ引き込まれそうな人は、当時は避けていて。


顔もデビュー当時とは、かなり違った。

身体を含めて、とにかく痩せていたのは事実で。

当時もう30歳近い年齢だけど、若い時期から、どんどん痩せていったのは、知ってはいた。

「あんなに、カッコ良い顔なのに。わざわざ化粧したらちょっと変だし、カッコ良くなくなるやん」が素直な感想で。

が、彼に自分が死にたいことも、退廃的なタイプを避けていたのも、言えるはずもなく。

ぐるぐる考えたけど、とりあえず

「知ってるよ。ラジオで流れたりするような、ヒット曲は聴いてるし、好きな曲はあるかなぁ」と、嘘じゃない範囲で答えた。


次に来る質問も、だいたいわかる。また脳がぐるぐる、ぐるぐる。

多分質問は、好きなミュージシャンは?で。

私は、誰を答えれば良いのか?で。

その後はずっと聴き続けた、スティービーは当時は、まだシングル曲の一部とアルバムは、『キー・オブ・ライブ」しか聴けてなかった。

アース・ウインド&ファイヤーが好きも、ディスコ全盛期だったから、そっちだと思われたくは無いし。

ブラックミュージックが、好きな人は誰も知らなかったから、ハードルも高そうで、ボウイからも遠そう。


ジェニファー・ウォーンズやカーラ・ボノフは知らない率高いし、キャロル・キングだとウーマンリブ?とか誤解されそう?

後には、ボウイもJAZZやR&Bを聴いてたのは知ったけど、この時期はそんなイメージも無かった。

イーグルスは、流行り過ぎて、ミーハー感が出るか?とか。


当時、彼に誰を答えたかは、ハッキリしない。

ビートルズや、カーペンターズとは言わなかったし、他も却下した。

もしかしたら、スティービー・ワンダーは、言ったかも?

多分色々考えた結果、彼も知ってそうな、ビリー・ジョエルと、知らない可能性は高いけど、色々なジャンルに跨ってる感じだから、ホール&オーツあたり。

正直、考え過ぎて、答えがわからなくて、そんな返事をしたか?で。


彼の反応は特になくて。記憶にないだけかも?だけど、「ふーん」って感じ。

特に「いいやん」とも、言わない感じで。

1番苦手な路線の、時期のボウイ。

かなり幅広く、聴いてたほうだけど、サーフロックのカラパナや、フュージョンのstuffなんかは、知ってそうにもないし、ここらへんも、ボウイからは遠い感じ。

今、正解を考えても、やっぱりわからない。ポリスもまだデビューしてない。ハマるほどは好きではなかった。

やっぱり、聴いてた中だと、その2組に行き着く感じで。


「ラジオは、どんな番組聴いてるの?」って、次もまた難しい質問が来た。

ランキング番組とか音楽系なのか?お喋り系なのか?また、脳はフル回転。

で、時間稼ぎのために、質問には質問返しで、

「S村君は、どんな番組が好きなん?」と返してみた。コレで種類?ジャンルを把握出来る。

ボウイが好きなぐらいだから、変わった音楽番組を教えてくれるかも?もあった。

が、彼は「あの番組とか…」って、主にAMでお喋り系をあげた。私も前によく聴いてた番組もあった。

が、住んでた場所だと、ラジオの電波が入りにくい、音が悪いお喋り系をいくつか挙げていて。

どうやら、私のようにラジオで音楽を録音する、エアチェック派では無さそう。

そんな番組も、少しはあったけど。

素直にちょっとビックリした私は、

「そんな番組は、ちゃんと入る?聴こえにくくない?」と返した。

「聴こえにくいよ〜。けどな、めちゃくちゃ面白い番組もあるし、聴いてみたら?」って返ってきた。

「音楽系の番組も聴くよ。ボウイだけが、好きって訳でも無いし。でも、あんまり気に入った音楽が、かからなかったりするし…」


ボウイに似た感じは、探すのは難し過ぎる。強いて言うなら、ブライアン・イーノだけど。

この時期はは一緒にやってるから、ボウイと同じだし。

イギー・ポップとか?後にプロデュースもしてるけど。

パンクは、多分だけど、ボウイに比べたら音楽的に未熟で、つまらない感じもあるし、何よりオシャレの方向性が合わない感じもした。


彼は聴いてる番組の、どこがどんな風に面白いのかを、めちゃくちゃ面白く説明してくれた。

「あのな、この人がまず面白いねん。なんかトボけた感じなんやけど。言うことも面白いし、考えるコーナーも面白いし」

って、それはまだ無名に近い、カルト的な人気はあったけど、全国区じゃなく。

テレビにも出る前。私は、名前も知らず、顔も見たことがなかった、所ジョージの話で。

当時は、深夜1時からの、「オールナイト・ニッポン」を担当していて。

彼があまりに、面白く番組の話をしてくれたし、1時からなら聴いてた番組とも時間は被らないから、聴いてみても良いかも?とは思い。

お気に入りの番組は、あの「ジェットストリーム」。少し古めの名曲や、カバー曲のオリジナルが流れたりしたから、聴いてた。

時間帯は、0時あたりから1時間で、番組は被らない。


中1、2年までは、お喋り系のAMラジオもかなり聴いてたけど、中2の冬からはFMで録音が目的になり。

「お喋りするラジオは嫌い?」

「ううん。好きやけど。前は鶴光とか、あのねのねの番組も聴いたりしたし」って言うと、

「お笑い系好きなんや!なら、絶対楽しいから、良いと思う。火曜日の夜やし、明日の夜やから、聴いてみて」とかなり、プッシュされた。


しかし。彼は一体何者?とはなり。

バブル以降は、3高男子って呼び名ができた。彼は、その3高男子。

かなり身長が高い、180センチ越え。

学歴は地区では1番の進学校。

小学生時代の塾でも、本当に成績がトップの男子しか受けない学校。

そこが危ないから、他の通える範囲の学校にしたり、試験日が違う学校を滑り止めで、受けるような人もいた。

収入は高校生だから無いけど、中学から私立の進学校へ行ってるから、まあ家庭は普通以上のお宅かと。


3髙なのに、顔は私の好みからはちょっとハズレてはいるけど、外人のような雰囲気で、カッコ良い。怖かったけど。

私服は知らないけど、オシャレだし。

物腰は意外に柔らかいし、声も好きな優しい声。

難しいタイプだけど、洋楽好き。

おまけに、中身が面白いって。

もはや反則な感じ。

話は始めた。世間話はするけど、向こうの目的がやっぱりわからない。


だいたい知らない男子高校生が、女子高校生に話しかける、理由は3つ。

1番は、相手が好きか、付き合って欲しいって、告白の類い。

2番は、「僕の友達が〜」とか、「アナタの友達のあの子が〜」とか、誰かを紹介して欲しい時。

3番目に考えられるのが、単なる友達になりたい。

ここまで、大して会話はしてないけど、どうも、1や2では無さそうな感じで、3番なのか?

待ち構えていて、話かけられた訳ではない。多分偶然同じ電車だった可能性が高い。

車両も違ってたから。私がギリギリだったから、珍しく1番後ろ。朝なら先頭になるから、彼が毎日乗ってる場所。

彼はそこより前、2両目に乗ってた様子だった。

まさかこんな人が、私を待ってるハズはない。他にいくらでも、可愛い女子はいただろうし。


声を掛けるより、掛けらるほうの人。

彼は見知らぬ女子から、手紙とか貰いそうなタイプの人で。

ちょっと怖い雰囲気だったから、そんな人がいたかは、知らない。聞けば良かったかなぁ…。

別の沿線で、超可愛い系イケメンだった人は、知らない女子から、山盛り手紙やチョコを貰ったり、直接告白されたらしく。

彼は3学年上だから、その当時には、もう積極的な女子は、まあまあいたのか。

彼の友人も、何度も見かけたことがあるらしい。本人もイヤだったと話してて。

沿線の女子では、知らない人がいないレベルだったとか。年上のお姉さんたちに、可愛い子扱いされるのが、特にイヤだったらしい。


女優の沢口靖子は、私より少し年下だけど、彼女も沿線では皆んなが知ってる美少女だったのは、事実として聞いた。

告白しては、男子たちは振られてたらしいけど。

そんな人も、世の中にはいる。

彼は高校生女子の一般受けは、少し低くめかもしれない。

が、3割ぐらいの女子には、強烈に好きになられるようなタイプ。

人気が高い、スポーツ系男子てはなく、中性的な雰囲気だから、当時どこまでモテたかは、知らないけど。


が、これは反則だ。見た目とは違いすぎて、頭がついていかない。

話したら、面白いとか。

目的もよくわからないし。ただ話す相手が欲しかっただけなら、知らない人に話しかけたりする?

変わらず、距離も角度も縮まらずに、向かい合うこともなく。

少しは、こっちを見てくれてはいたけど、基本は真っ直ぐ前を見たまま話す。


手持ちのカバンを、両手で膝のあたりで持ってる姿は、多少お姉エ臭がしなくは無い。

で、デビット・ボウイ好きの高校男子なんて、世の中にいるのか?とも。

互いに直角に立ってるから、視線は柵の向こうあたりでは、交差はしたけど。

目がキチンと合ったのは、最初に定期を拾った後だけで。今も私の顔は見ずに、話してる。


死に方を1人で考えながら、電車に揺られてた私だから、深くは考えなかった。

そろそろ、電車を降りる人が増えて、駅も混み始めた。

死にたくなってからは、踏み切りの警報器の音をひたすら聴いてたから、踏み切りの近くにいるのは、嫌だった。

でも、それは言えない。初対面なら尚更で。


何となく、会話を切り上げる雰囲気になり、「行こうか?」って。

そのまま、2人で踏み切りを渡り、改札口を出て、また反対に踏み切りを渡る。

渡って私はすぐに右へ、彼はそのまま真っ直ぐに行くと家に。

それ以来、夕方会うとそこで、「じゃあ」って言って分かれた。


話してみたら、楽しい人、面白い人だし、話題も合いそうな感じ。

相手が話しかけてきた目的は、サッパリわからないけど、家に帰れば貧乏な現実が待っていて。

赤い差押えの紙が、家の中のあちこちに貼られている。

夜遅い時間までは、彼のことは、深くは考えずにいた。


1番の告白はされず。2番の友達の話も全く出なかった。

が、3番の友達になりたいも、普通はそんな理由で話かけるなら、似た雰囲気の外見とかの人を選びそうだし。

元彼は、そんな感じだったから、「付き合いたい」って言われても、驚く感じではなく。

謎の美少年?に、まさか話かけられるとか、多分人生で1番の謎。


知らない人に、よく話かけられるのは確かにあり。

1人で歩いてると、道を聞かれることは、かなりあった。外人さんにも。

顔には英語出来ます!とは書いてなかったけど、多分目が合っても、逸らさないからかと。

外人さんが来たら、当時の日本人は目を合わせないような人は、たくさんいた。


が、彼とは目が合ったこともなく、彼は私を見かけてた、感じも無くて。

他の人だと話かけて来る前に、何度か目が合ったりはしていて。

何となく顔見知り感がある人が、話しかけてくることが多かった。雰囲気は、何となく、見たことがある同士。


この人の場合は、まずそこがよくわからない。

目が合って、ちょっと笑ってたりしたら、好意まではなくても、好感ぐらいはあるのかは、なんとなくわかる。

まずもって「駅でよく見かける人」が、よくわからない。いつ?どうやって、私を見かけてたのが、わからない。


テキトーに言ったのかも?

が、見たことがなかったら、目が合っても「アッ」とはならないか。

帰り際にも、特に「明日もあの電車に乗る?」とも「明日から、一緒に行く?」とも、何一つ言わない。

「また話したい」すら、言わない。 


明日からどうするか?が問題。

誘われてはいない。向こうは、また話したいと、思ってるのかも不明。

また、同じ電車の時間に行くか?

他に乗るか?他の時間に変えたら、わざわざ変えた感じだし、嫌がってるようにも取られかねない。

自分の人生で大変だったから、その日は深くは考えなかった。


話していて楽しかったし、どのみち朝も1人で行ってたから、また話してみるのも悪くない。

お喋り相手がいるなら、通学の時間が少しは早く過ぎるかも。

「ジェットストリーム」が終わって、「オールナイトニッポン」に合わせはみたけど、その日は雑音が多いわりには、あまり、内容は面白くなく。

早めに寝ながら、「ま、明日も話してみても良いかも?」と考えて、寝た。 


「おはよう」って声をかけてみて、相手がどんな反応かで、考えれは良いか…で、出たとこ勝負にすることにした。

また、話してみたかったのも確かだし。

何より、面白い。

ジャクソン・ブラウンの王子様感や、ダリル・ホールのカッコ良さに、やられてはいたけど、その人たちは私にとっては実在の人ではなく。

アーティスト?ミュージシャンって言う、別世界の人たちだし。住んでる国も違う。属する世界も違う。

なんならボウイは、王子様を超えて、貴族っぽい顔立ちだけど、どこか宇宙人か、異世界から来た人みたいだった。

彼らは、私に面白い話はしてくれない。素敵な音楽や歌詞は作って、届けてはくれるけど。


彼は笑わせてはくれる。なら一緒に行くか…が結論で。

翌朝からも、同じ時間に行った。

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