第12話 王城の試練
巨大な城門をくぐり抜けた先は、活気と秩序が完璧に両立した別世界だった。
馬車の窓から見える王都『セントラリア』の街並みは、これまで俺が知るどの都市よりも壮麗で、道行く人々の服装さえも洗練されている。ゼーブルクが地方の拠点都市なら、ここは紛れもなく世界の中心だ。
「……すごいな」
「人が多いな。少し落ち着かん」
感嘆の声を漏らす俺とは対照的に、セレスティアは少し居心地が悪そうに眉をひそめている。彼女は、こういうきらびやかな場所は好まないらしい。
馬車は市街地を抜け、さらに厳重な警備が敷かれた内門を通り、やがて白亜の王城の中庭で停止した。
バルド補佐官に促されるまま馬車を降りると、そこは寸分の狂いもなく手入れされた庭園と、天を突くようにそびえる城の威容が俺たちを圧倒した。
「国王陛下が、謁見の間にてお待ちだ。ついてきなさい」
バルド補佐官に導かれ、俺たちは王城の内部へと足を踏み入れる。
磨き上げられた大理石の床、壁にかけられた英雄譚を描いた巨大なタペストリー、豪奢なシャンデリア。その全てが、この国の豊かさと権威を物語っていた。
すれ違う貴族や騎士たちは、俺たち――場違いな冒険者――に、好奇と、そして侮蔑が入り混じった視線を向けてくる。特に、騎士たちの視線は敵意に近かった。勇者に代わる存在として呼ばれた俺たちが、彼らのプライドを刺激しているのだろう。
やがて、巨大な黄金の装飾が施された両開きの扉の前で、俺たちは足を止めた。
謁見の間だ。
「これより、国王陛下に謁見する。くれぐれも粗相のないように」
バルド補佐官の最後の注意を聞きながら、俺は隣のセレスティアと小さく視線を交わす。彼女は静かに頷き返し、その手はいつでも魔剣の柄を握れるように、腰の辺りで待機していた。
重々しい音を立てて扉が開かれる。
その先には、途方もなく広大な空間が広がっていた。天井は高く、ステンドグラスから差し込む光が、部屋全体を荘厳な色で染め上げている。そして、その遥か奥、深紅の絨毯が続く先に、壮年の威厳ある男が玉座に腰かけていた。
国王、レオナルド三世。その人だった。
国王の脇には、黄金の鎧に身を包んだ厳格そうな騎士団長と、ローブをまとった怜悧な雰囲気の宮廷魔術師長らしき人物が控えている。
俺たちが玉座の前で膝をつくと、バルド補佐官が国王に報告を始めた。
報告を聞き終えた国王は、値踏みするような視線で俺たちを見下ろし、ゆっくりと口を開いた。
「面を上げよ。君たちが、『不死身の剣姫と影のヒーラー』か」
「はっ」
「勇者アレク一行の追放は、苦渋の決断であった。だが、国を脅かす『新たなる脅威』を前に、我々に感傷に浸る時間はない。……君たちには、アレクに代わり、この国の剣となってもらいたい」
その言葉が終わるや否や、それまで黙っていた騎士団長が、一歩前に進み出た。
「お待ちください、陛下!」
その声は、謁見の間に響き渡るほど、よく通る声だった。
「勇者の代わりを、このような素性の知れぬ冒険者に務めさせるとは、到底承服できかねます! まずはその実力、このリチャード・バレスタの目で見定める許可を!」
騎士団長リチャードの言葉には、強い自負と、俺たちへの明確な不信が込められていた。
国王は、その進言を予測していたかのように、静かに頷く。
「……よかろう。リチャード、君に任せる。この者たちの力が、我が国の剣として相応しいか、その目で確かめるがよい」
「ははっ! 御意!」
話は、あまりに早く決まった。
有無を言わさぬまま、俺たちは城内の広大な訓練場へと連れて行かれる。
観客席には、国王やバルド補佐官をはじめとする城の重鎮たちが座り、俺たちの実力を見定めようとしていた。
訓練場の反対側には、完全武装した騎士団長リチャードが、巨大なグレートソードを肩に担いで立っている。その背後には、選りすぐりと思われる騎士たちが10名ほど整列していた。
「模擬戦とはいえ、手加減はせんぞ、冒険者! 我らを納得させられるだけの力、見せてみよ!」
リチャードの檄が飛ぶ。
それに対し、セレスティアはただ不敵に微笑み、ゆっくりと魔剣の柄に手をかけた。
「望むところだ。――カイ、準備はいいな?」
俺は、静かに頷いた。
「ああ。いつでもいける」
審判役の騎士が、高く手を振り上げる。
王城での最初の仕事は、どうやら俺たちの力を、この国のトップに叩き込むことらしい。
「――始めッ!」
号令と共に、騎士団長リチャードが、地を蹴った。
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