第19話 獣鬼②

「よかった」

「達也君の方は立件が難しそうだな」

「はい、しょうがないです」

浜田は肩を落とした。


浜田は外に出ると夜野に電話をした

「夜野さん鬼が出ました!」

「ああ、今魔美からも連絡があった。今夜鬼退治をする」

「お手伝いします」

「じゃあ17時に善然寺で」

「はい」

浜田は部下の佐藤と月島へ向かった

前原に渡されていたファイルの写真は

首と手首と膝から下の肉が残り毛皮の下は

白骨になっている猟奇的な写真だった。

「わっ、きもちわりい」

浜田は顔を背けた。


浜田が現場に着くとブルーのシートで覆われ、中では鑑識が

作業をしており数人の警察官がその周りに立っていた

浜田が中へ入ると外で騒ぎが起こった。

「おい、中に入れてくれ」

「駄目です」

そこへ浜田が出てきた

「あれ?夜野さん」

「おお、近くに客を乗せてきたから」

「ああ」

浜田は礼司をシートの中に入れて写真を見せた

「うっ、きもちわりー」

「鬼ですね」

「当たり前だろう、こんな事ができるのは」

そこへ魔美から電話があった

「鬼の名前は獣鬼、毛皮にされた動物の霊が鬼になったの」

「毛皮って凄い数だぞ」

「うん、23時にどこへ行くかだね」

「武器は?」


「とりあえずロープ」

「ロープ?わかった」

「うん」

礼司は電話を切ると

「浜田ロープあるか?」

「はあ、犯人の護送用細いのとロープと救助用の太いロープがありますが」

「ああ、両方」

「解かりました。調達します」

「俺はちょっと仕事してくる。17時に善然寺な」

「はい」


礼司が善然寺に着くと

魔美と浜田が犬のポチと猫二匹連れて

待っていた。

「悪い、遅くなった」

「いいえ、大丈夫です」

礼司がタクシーの後ろのドアを開けると

魔美とポチと猫が二匹乗って座った


「おお、新入りか?」

「うん、嵐丸と奥さんのさくらだよ」

「さくらよろしくな」

「にゃ~」

さくらはと鳴いた

「さて、鬼はどこだ?」

「あの」

浜田は小声で言った

「なんだ」

「毛皮と死体見ますか?」

「おお、さすが浜田。毛皮は鑑識か?」

「ええ、本当は証拠品として所轄にあるはずなんですけど。

まだ解剖した新宿大学病院にあるんですよ」

「分かった。じゃあ行くぞ」

礼司はタクシーをスタートさせた。


「担当の医師は女性だそうです」

浜田がメモを見て言った。

「ええっ!女性かある意味ですごい。

きっときついおばさんだぜ」

「そうですね。あはは」

「ところで、浜田。お前の体、向うの世界ではどうなっている?」

「確認はできませんが冷凍保存しているはずです」

「そうだよな、もし体がくさったりしていたら二度と戻れないな」

「ええ、和久井警視正を信じていますし、

任務が無事遂行できれば死んでも仕方がありません」

「覚悟ができているんだな」


「はい、他の連中も同じです。隊長と運命を共にします」

「そう言われても、俺はこっちでは

年収300万円弱の運転手だからな」

「ええ?それしか稼いでいないの?」

魔美は馬鹿にしたような口調で言った

「馬鹿!今は厳しいんだよ、運賃も上がって客も減ったし」

「運賃が上がったのよ最近」

「隊長、こっちの世界を捨ててSSATの

隊長をした方がいいんじゃないですか?」

浜田は目を輝かせた


「いや、私の世界へ来てママと結婚すればいいのよ」

「あはは」

「そう言えば魔美ちゃんのお父さん何の仕事していたの?」

「う~ん、民俗学と自然科学」

「じゃあ、無理だ。俺にはできない、

向うの世界でもタクシーの運転手じゃあなあ」

「そうかなあ」

魔美は腕を組んだ


礼司達が大学病院の駐車場にタクシーを止めると

ポチと嵐丸とさくらを車内に残し

院内に入ると玄関に女医が待っていた。

それは、南里大学病院にいた川島由美だった

「ああー」

礼司は驚いて川島由美を指差した

「先日はどうも」

「はい」

礼司は頭を下げた

「おい、浜田。お前が入院していた病院の先生だぞ」

「はい」

浜田は納得が行かない顔をして川島に頭を下げた

「そうね、浜田さんが意識を戻した時急用ができて

会っていないんですものね」

「は、はい」

「では、解剖室へ案内します」

「ところで先生どうしてこちらにいるんですか」

「そうね。解剖医が本業なのかな」

「そうですか」礼司は顔を傾げた


三人は川島から数メートル離れて

「隊長、あの先生うちの由美さんに似ていませんか」

「ああ。そっくりだ」

「ねね、ひょっとしたら」魔美が言うと

「そうかもな」

「ええ、そうかもしれません」

「でも、向うの由美が影響していたら、もっと俺に優しいはずだ」

「それはしょうがないでしょ。うふふ」


三人は別棟の3階の解剖室へ案内された

「浜田さん、毛皮は体から剥ぎ取って

隣の部屋においてありますがどうします?」

川島は淡々と話した

「じゃあ、死体から」

浜田は礼司を見て言った

「魔美は見るな」

「いや、見たい」

「お嬢さん見ない方がいいわよ」

川島は優しく言った

「大丈夫です」

魔美は微笑んでいった


四人はホルマリンの臭いが漂う

部屋にはステンレスの解剖台があってシルバーのシートが

かけてありそれを川島が取ると

三人は息を止めた。

それは、首と手首と膝から先にしか肉がついていなかった

「ああこれはひどい!」

三人は口をそろえて言った

「骨の部分は肉のかけら一つ残っていません」

「本当、ツルツルですね」

「大丈夫か、魔美」

「うん全然」

魔美のあっけらかんとした態度に礼司は驚いた


「この、肉の部分傷はどうなっていますか?」

浜田が川島に聞いた

「はい、部分的に20mmの犬歯の痕が残っていますので

柴犬くらいの大きさの動物に食われたんだと思います」

「毛皮の方は?」

礼司が聞くと浜田が指さした。

「隣の部屋にあります」


その毛皮内側は余す所無に真っ赤な血が半分固まりだしてべっとりとついて

いた。

そこで川島と浜田は会話を始めた

「体から毛皮を取るのが大変でした、首、手首、膝に食い込んでいて」

「そんなに?」

「ええ」

「じゃあ、外から食われた訳ではないですね」

「鑑識ではないのではっきり言えませんが、毛皮に噛痕はありませんでした」

「じゃあ、あの女性は・・・・・内側から食われた」

「ええ、他に考えられません」


礼司と魔美は川島に聞こえないように離れて話をしていた

「やっぱり、毛皮に食べられちゃったんだね」

「ああ」

「それでどうなの?何か感じる?」

「それが、この毛皮に鬼はいない」

「じゃあ、死んだ現場かしら」

「う~ん。もっと近い気がする」

「じゃあ、あの死体が鬼?」

「いや、この病院に近いのは間違いない・・・と思う」

「うん、じゃあ鬼退治はこの近くでいい訳だね」

「ああ」


礼司と魔美が川島に近づいた

「先生、お話は済みました?」

「ええ」

「ちょっとお茶でもしませんか」

礼司が強張った顔で言った

「そうですね、この時間なら食事でも」


「あっ、先生が誘っている」魔美が囁いた

「そ、そうですね」

四人は病院の裏側にあるレストランに入った

「夜野さんお時間は大丈夫ですか?」

「ああ、運転手は歩合ですから。あはは」

「えっ、夜野さんは運転手さんなんですか?」

「は、はい」

「なんか、似合いませんね。浜田さんの上司に見えましたわ」

川島は顔を赤らめて言った

「あはは」

礼司は照れて頭を掻いた

「ねえ、川島先生に本当の事言おうよ」

魔美が礼司のわき腹をひじで突いた


「そうだな、では川島先生。鬼って知っていますか?」

「鬼?」

礼司は川島を見て上がっていた

「夜野さん僕が話します」

浜田は礼司の膝を叩いた

「うん頼む」


「川島先生」

「はい」

「今回の事件の犯人は鬼の可能性があるんです」

「お。鬼ですか?節分や桃太郎に出てくるやつでしょ」

「ええ、霊と人間の思いが何らかの事でつながると

鬼が現れるんです」

「その鬼が?」

「人間を食うんです」

「ええ、本当なんですか?」

「はい、新宿中央公園の事件とか渋谷のライブハウスの事件とか」

「ええ、憶えています、新宿の首なし事件はここで解剖しましたから」

「そうですか。では」

「信じます。その鬼退治をするのが夜野さんと魔美さんなんですね」


「はい、今回の事件も鬼が犯人なんです。でも警察は動けませんから」

「わかりました。それで私はどうしたら?」

「先生、他にもこんな事件ありませんでしたか、毛皮に関する事件」

川島はしばらく考えると

「そう言えば、先週毛皮のマフラーで首を絞められて殺された女性がいたわ」

「ああ、大久保のマンションで女子大生の中村洋子が殺されたやつだ」

「それって絞殺だけですか?」

礼司が身を乗り出して聞くと

「えっ?そう1ヶ所右手を切られた傷が有ったわ、どうして?」

「もしかして、その血が毛皮に着いた、可能性は?」

「ええ、絞殺だったら必ず手でかばおうとするから100%毛皮に着きます」

浜田は断言した


「それが獣鬼が現れた原因だ」

「ええ、そうね」

「浜田、その女を殺した犯人は?」

「まだ捕まっていません」

「捜査状況わかるか?」

「あっ、はい調べてみます」

「そこに居る毛皮の女性の男関係も」

「はい」

浜田は電話をかけに外に飛び出した


「ところで、先生聞きたいことがあるんですが」

礼司が真剣な目で川島に聞いた

「はい」

「ひょっとしたら川島先生は我々の仲間かも知れないんです」

「はい?」

礼司は鬼の世界と浜田と向うの世界の川島由美の存在を話した

「はい、なんとなく解かりました」

川島は不安そうな顔をした

「もし、本当に向うの川島由美さんが来ているならどうやって記憶を戻すの?」

魔美が礼司に聞いた

「うん、浜田の時は煙鬼を倒した時に突然倒れた、だから先生が鬼退治を見れば」

礼司は川島の顔を見た

「はい行きます」

川島が返事をした

「先生、二つの記憶が頭の中で交差します、苦しいですけれど」

「解かりました、覚悟します」

そこへ息を切って浜田が入って来た

「隊長、関係がわかりました」

「おお」

「そこの死体の女性、井田真知子の交際相手が歌舞伎町『ピート』のホスト加等和則でした」

「女子大生の中村洋子は?」

「ええ、歌舞伎町でキャバ嬢をしていました」

「何かつながりが有ったかも」

魔美が興味深そうに言った

「そうかもな」

礼司は魔美の頭を撫でて言った

「浜田、ホストと女子大生の関係を調べよう」

「はい、すぐにピートへ行って女子大生が客だったどうか調べます」

「頼む時間がない」

「はい、隊長一緒に行ってください」

「そうか、足が無いんだな」


「はい」

「先生も一緒に」

「はい」

川島は白衣を脱いで茶色のジャケットを羽織った

四人は礼司のタクシーに向った

「夜野さん、どうしてタクシーで移動なんですか?」

川島が不思議な顔をしていると

「本業がタクシーの運転手なもので」

「えっ、それだけの能力があるのに?」

「そうですね。だれも鬼の存在を認めないし報酬もくれませんからね」

浜田は訴えるように川島に言った

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