原作主人公vsオリ主

大根ハツカ

第一章 輪廻転生ボーイミーツガール/Game_Start

一話:プロローグ/OP



覚醒めざめるんだ、原作主人公タイトルロール



 赤、赤、赤。

 目の前が真っ赤に染まる。

 それとも、目の奥だろうか。


 鉄錆のような血の匂いがした。

 何処からだろうかと辺りを見回そうとするが、首が回らないことに気がつく。

 回らない首で、必死に目を凝らす。


 視界の先で、頭の無い死体を見つける。

 地面に倒れた死体から、赤い血が溢れる。

 いや、あれは……。



 あれは俺の体だ。

 あれは俺の血だ。



 こちらを眺める少女と目が合う。

 そうして俺は追憶する。

 走馬灯を、あるいは前世の記憶を。






第一章 輪廻転生ボーイミーツガール

    Game_Start.






「グッモーニング、伊吹いぶき。まぁ、モーニングと言うには遅すぎるがな。ゴールデンウィークでボケたか?」


 教室に入ってすぐ、真緑の頭が目につく。

 黒板の上に掛けられた時計の針は、とっくに一二時を過ぎていた。


「おはよう、裕也ゆうや。お前の髪色よりはマシだよ。頭髪検査引っかかる所の問題じゃないだろ」

「職員室に呼び出されて、しっかり叱られてきたぜ。一昔前ならバリカンで剃られてたんじゃねぇかなぁ」


 この髪を緑に染めたバカの名は、栗栖裕也くるすゆうや

 小さい頃からの腐れ縁で、これでも父親が警察官だって言うんだから驚きだ。


「俺は生徒指導室で叱られたよ。別にサボりたくてサボった訳じゃなくて、目覚まし時計が壊れてたからなんだけどな」

「言い訳だと思われてたんじゃねぇの? スマホのアラームを掛け忘れてたとかならまだしも、目覚まし時計が壊れてたは中々起こらないだろ」


 俺も見たときはびっくりした。

 目覚ましが鳴らない、時計が遅れているなどではなく、

 あんな現象は俺も初めて見た。


「いやぁでも、ただの寝坊で良かったぜ。どっかで焼死体になってんのかと心配してた」

「死体とは物騒な。しかも、何で焼死体限定?」

「お前……さてはニュース見てないな?」


 何かあったか?

 家にテレビがないので、時事ネタはほとんど分からない。スマホで最近のネットニュースを調べる。


「最近、この辺りで連続無差別焼殺事件が起こってんだとよ。近くで火事はなく、ガソリンとかの痕跡もなく、ただ人間一人だけが燃え尽きるって事件がな」

「それは恐ろしいな」

「そうだよ。そのせいで放課後に部活は出来ねぇし、ゴールデンウィークも夜遊びが出来なかったって訳よ」


 こいつの夜遊びはどうでもいいが、死人が出てるのは物騒どころじゃない。最低でも殺人鬼。もしかすると、集団の恐ろしい組織の可能性もある。

 しかも連続ってことは事件はまだ終わりではなく、無差別ってことは次に誰が標的になるのか分からないってことだ。

 

「椎菜は大丈夫なのか? 女の子が一人で帰るのは危なくないか。帰る方向が友達と一緒なら安心だけどさ……」

「おお? うちの妹を心配してくれるとは、椎菜に気があると見た」

「バカなこと言ってないで、一緒に帰ってやったらどうだ?」


 裕也の妹の名前は栗栖椎菜くるすしいなと言い、こいつと違って真面目な高校一年生だ。品行方正で教師からの覚えもめでたく、校内で三本の指に入るぐらいには容姿も可愛い。

 小さな頃から三人で遊び、最近でも家事を手伝いに家まで来てくれる優しい子だ。俺を先輩として慕ってくれる、良い後輩でもある。


「そう言うお前が一緒に帰ってやれよ。椎菜も兄貴と帰るよりも、お前と帰った方が喜ぶんじゃねぇの」

「いや、そんなことはないだろう。入学したばっかなのに、上級生と下校する所を同級生に見られるのは恥ずかしいんじゃないか?」

「女心が分かってねぇなぁ……」


 俺が気になる先輩とかだったら椎菜も喜ぶのだろうが、俺と椎菜はただの幼馴染だ。

 椎菜の高校での友人関係を壊すのは忍びないし、椎菜に好きな人がいて誤解なんかされたらもっと申し訳ない。女心が分かってないのはこいつの方だと思ったが、口に出したら面倒臭くなるので黙っておく。


「とりあえず、椎菜に許可取ればいいんだろ? 椎菜に電話して直接聞くわ。絶対、オッケーって言うだろうぜ」

「まぁ、椎菜が良いって言うなら、俺もいいけど……」

「ちょっと待った」


 まあいいかと頷こうとした時、後ろから声がかかった。一度も聞いたことのない声であった。



六道伊吹りくどういぶきはボクと一緒に帰ってもらうよ」



 声に反応して後ろを振り向く。

 振り向いた先には絶世の美貌が存在した。


 銀色の長髪は光を反射して輝き、髪はくねりながらも肩の下まで伸びている。

 赤い瞳は顔の大きさに比べて大きく感じられ、宝石のように目の奥を光らせている。

 低い身長は可愛らしさを強調しているが、着崩した制服の首筋からは色気が感じられる。

 その容姿は文字通りモデルの美しさで、月の女神のような印象を受ける。


 その少女の名前は別のクラスの俺でも知っている。校内で三本の指に……最も綺麗だと思われる美少女。

 その名は折手おりでメア。


 椎菜と違って品行方正ではなく、学校を幾度となくサボり、全ての授業で寝ているが、これまでの定期テストで全教科満点を叩き出した天才。明らかに通う高校を間違えた逸材。


 しかし……



「あのー、折手さん……」

「なんだい?」

「俺たち初対面だよな?」

「そうだね」

「それなのに一緒に帰るのか?」

「そうだね」

「???????」


 ???????


 何も理解できない。

 言葉が通じない訳ではない。

 意味が分からない。

 天才に凡人の気持ちは分からないのか、天上人に庶民の気持ちは分からないのか。


「ボクはキミに伝えたいことがある。だから、ボクにキミの下校時間をくれないかな」

「それはここで話したらダメなのか?」

「ダメだよ。だって……恥ずかしいだろ」


 折手さんは顔を少し赤らめてはにかむ。

 これはつまり……か⁉︎

 映画や漫画でしか見たことのないアレか⁉︎

 飛び上がりたい衝動を堪える。

 いや、焦るには早い。

 まだ、そうと決まったわけじゃない。


「えーと、あの……何で俺なんだ?」


 その質問を聞くと、折手さんはキョトンとした顔をした。当たり前のことを聞かれたかのように、1+1の問題を答えるかのように、折手さんはこう言った。





 もうこれは決定だろ。

 付き合うとか断るとか、そんな次元ではない。女の子に好きになってもらう。ただそれだけで、人生のトロフィーを実績解除アンロックしたようなものだ。


 昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り、折手さんは自分のクラスへ帰って行った。

 学校一の美少女と会話していた俺には周囲から視線が刺さる。特に真横からの視線が強い。

 最も強い視線の発生源、栗栖裕也に俺はキメ顔でこう言った。



「俺は今日、大人になってくる」

「ぶっ殺すぞ」








 ホームルームが終わり、三十分ほど経った。

 裕也の言う通り、全ての部活が休みになっているのか、残っている生徒はいなかった。


「待たせてすまない」

「教師に頼み事をされてたんだろ、仕方ないよ」


 夕暮れの中、二人きりで下校する。

 周囲には人気が全く無かった。

 一切の会話なく、赤く染まった空の下を歩く。


「…………」

「…………」


 会話はない。運が良いのか悪いのか、人通りも全くないため好奇の視線に晒される事はないが、代わりに耳が痛くなるほどの沈黙が支配する。

 謎の緊張感に耐えられなくなり、俺は折手さんに話しかける。


「あー、それで。その、折手さんの話について聞きたいんだけど……」

「すまない、少し緊張していたようだ」


 心臓がバクバクと拍動する。

 空の色のせいか、会話の内容のせいか、折手さんの顔も赤くなっていた。

 折手さんは何度か深呼吸すると、覚悟を決めてこう言った。



「実は……



 ……。

 …………。

 ………………ん?


「…………んん?」


 意味不明エラー理解不能エラー

 別次元の言葉を聞いたかのように、脳みそが処理落ちしている。


「もう一度、言ってくれないか?」

「この世界は前世で好きだった『テンプレート・トライアンフ』……通称『テントラ』というゲームの世界で、キミは『テントラ』における主人公。つまり、これから巻き起こる騒動ストーリーの中心人物なんだ」


 ……つまり、これは。

 俺は揶揄われたということか。

 いや、それはそうだ。学校一の美少女が俺のファンだなんて、都合が良いにも程がある。どうして俺が選ばれたのかは知らないが、イタズラを思いついた時に目に付いたとか、多分そんなんだろ。


「宗教勧誘なら、他でやってくれ。俺はゲームの主人公になれるような特別な人間じゃない。俺のファンとか言ってたのも、全部ウソなんだろ?」


 あぁ我が親友、栗栖裕也よ。

 俺はお前よりも一歩大人になってしまった。

 苦い思い出ってやつを抱えてしまったよ。



「いいや、ボクはキミに嘘を吐かない」



 しかし、折手メアの目は揺るがなかった。

 まるで自分こそが世界の真理であるかのように、堂々とした態度であった。


「キミはプレイヤーが自己投影しやすい普通の高校生というコンセプトで作られた登場人物キャラクターだ。まぁ、お前の何処がありふれた普通の高校生なんだオブザイヤーを受賞してはいるけどね」

「なんて?」

「お前の何処がありふれた普通の高校生なんだオブザイヤー。主催者ボク、投票者ボク、受賞者キミの表彰状だね」


 言ってるのお前だけじゃねぇか。

 俺の反応は無視して、折手メアは「それに」と続けて言う。


「それに、ボクがキミのファンって言うのは嘘じゃない。ボクはこの世界ゲーム購入者ファンで、キミが描く物語ストーリー読者ファンで、キミの夢女子ファンなのさ」


 言葉の内容は相変わらず意味不明だった。

 ヤバいクスリでもやってるのか、ヤバい宗教でも信仰してるのかと思う言動だった。

 しかし、どうしてだろうか。

 折手メアのその言葉から愛情を感じた。

 折手メアの言葉を信じていいと思えた。


「あー……まぁ、全部信じた訳じゃないけど、言いたいことは分かった。ちなみにどんなゲームなんだ? アクション系のゲームは苦手なんだけど……」

「いや、ゲームと言ってもノベルゲーに近いものかな」


 ノベルゲー……小説みたいなものか。


ADVアドベンチャーゲームって言って伝わるかな。選択肢を選んで、ヒロインを攻略して、結末トゥルーエンドを目指すゲーム……いわゆるギャルゲーに近い感じ?」


 ギャルゲーは少し分かる。

 やったことはないが、女の子を攻略するゲームだろう。……つまり、これから俺はモテ期に入るってことか?


「マジか……、俺が恋愛ゲームの主人公になるとか、この世界どうなってんだ。もしかしてあれか。栗栖裕也は物知りな親友なのか?」


 そんな呑気な考えは、早々に打ち砕かれる。



「いいや、ジャンルは。詳しく言うなら、だね」



「……は?」


 折手メアの発言は俺の思考をぶった斬った。

 バトル?????

 普通の高校生がバトル?????


「ホント、栗栖椎菜と下校しようとしていて焦ったよ。いきなり原作が壊れるかと思った。キミは先生に頼み事をされて、少し遅い時間に一人で下校しなくちゃならない」


 周囲に人はいなかった。

 


「『テントラ』というゲームは、一日目の夜にあるOPオープニングのイベントが話題になったんだ。それこそが原作開始地点、物語の始まり」


 折手メアは三日月を背景にして笑う。

 その美貌はまるで月の女神のようであった。





 直後、折手メアの背後から黒い犬が迫る。

 二匹の影、黒い狂犬。

 ヨダレを撒き散らす犬を見て、咄嗟に足が後ずさるが、


 二匹が俺の元へ駆け寄り、身体を押さえつけるかのように上に乗る。手入れのされていない爪が俺の足に食い込み、俺の肉を喰らおうと口を開ける。

 近づくあぎとに持っていたカバンを投げつける。一匹の噛み付きは防いだが、もう一匹が俺の足首に噛み付く。


「グアアアアアア……ッッッ‼︎⁉︎⁉︎」


 痛みに絶叫する。

 それとも捕食者に対する恐怖だろうか。

 絶叫の理由なんて考える余裕はなかった。

 視界がチカチカと点滅を繰り返す。


 だが、叫んでいる暇はなかった。

 捕食者は一匹ではない。

 カバンを吐き捨てた黒犬が、倒れ伏した俺に駆け寄る。


 顔がベチョベチョに濡れる。

 涙だろうか、汗だろうか、鼻水だろうか。

 それとも、こいつらの涎だろうか。


 獣の牙が俺の首に突き刺さり、骨ごと首を喰い千切る。首が抉れる、血が舞う。


「……ぁ…………」


 声は出ない。

 横たわる首のない死体を眺める。

 綺麗に笑う折手メアが見える。


 そうだ、全てを思い出した。

 これは今起こっている出来事ではない。

 これは追憶する記憶の始まり。

 これが全てのスタートライン。

 


 そして俺の人生の終わりだ。


 そして。

 そして。

 そして。

 そして、………………。












 気づくと、俺は路上に仰向けで倒れていた。

 咄嗟に手で首を押さえる。

 怪我はなかった、痛みはなかった。


「夢……か……?」


 そうだ、夢だ。夢に違いない。

 だって、現代日本であんなことがある訳ない。

 全部夢だ。あの黒犬も。ゲームとやらの話も。


 全て夢だと思い込む。

 だが、あの少女の美貌がそれを邪魔する。

 何処からが夢だ?

 折手メアと下校したのは?



?」



 呆然としていた時、横から──仰向けに寝ているため正確には頭の上から──声がかかった。聞き覚えのある声だった。


「折手、メア……」

「おはよう、六道伊吹りくどういぶき。おはよう、原作主人公タイトルロール


 目があった。

 何があっても揺らがない、ゾッとするほど美しい宝石のような赤い瞳で俺を見る。

 ゆっくりと、一歩ずつ折手メアは近づく。

 そして、俺を見下ろして告げる。


「改めて自己紹介だ。ボクはオリジナル主人公の折手おりでメア。折手オリ主リー・スーで覚えてくれ」


 頭が回らない。

 体も動かない。

 そんな中、とにかく何かを言わねばと必死に声を絞り出す。

 だが、口から出たのはこんな言葉だった。



「パンツ見えてんぞ」

「パンチラのイベントスチル……だと……⁉︎」

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