恋の瞬間

五布団 睡

第1話 茜色の気づき

放課後の教室は、人の気配がすっかり消えていた。

窓から射し込む夕陽が床を染め、机の影を長く伸ばしている。

忘れ物をとりに教室へと行くと、

窓際で本を読む君がいた。

僕の目線にに気がついたのか本から僕の方えと目線を向け、本を閉じた。


「あら、どうしたの?」

「忘れ物をしたんだよ、君は帰らないの?」

僕が言うと

君は窓を見て、ふふっと笑う。

その横顔を、茜色の光がやわらかく包む。


「そうね、本に夢中で気づかなかったわ、そろそろ私も帰るわ」


鞄を取り、本を入れた。

何気ない言葉なのに、胸の奥で音を立てて何かが崩れた。

今まで友達だと思っていたはずなのに。

笑い合う時間が、ただ心地よいものだと思っていたはずなのに。

違う。

今この瞬間、わかってしまった。

夕焼けに染まった君を見て、これが恋だと気づいてしまった。

僕は返事を遅らせまいと、慌てて笑った。

けれど頬にのぼる熱は、夕陽のせいだけではなかった。

顔の熱を隠すように僕は早足で教室から出ていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る