04
新しい高校の制服は、田舎らしく古っぽいセーラー服……なんてことはなく、普通にその辺にありそうなブレザーの制服だった。特別おしゃれ、というわけではないけれど、ダサい、と思うほどでもない。前の高校のものと、そこまで変わらないようだ。ただ、前の高校はリボンやネクタイなんかはなかったけれど、今度はあるみたいで、なんだか首元が少し落ち着かない。
廊下を先に歩く土湯(つちゆ)先生の後をついて行っていると、ふと、窓から校舎が見える。今いる校舎は比較的新しく感じるのに、向こうはだいぶ古そうだ。旧校舎、ってやつだろうか。
「――六月一日(うりはり)さん、大丈夫?」
「あ、はい。すみません、大丈夫です」
校舎が気になって、歩くペースが遅くなってしまったようで、土湯先生が足を止め、わたしの方を確認していた。
窓から見える限りでは、向こうの校舎にもいろいろ物があって、まだ普通に使われているっぽいし、そのうち向こうの校舎に行くこともあるだろう。そのときに見ればいい話だ。今は朝のショートホームルームに間に合わないと困る。
わたしは軽く駆け足で、土湯先生の元へと向かった。
「緊張してる? 分かるよ、先生も緊張したもの」
そうやって、少しからかうように笑う土湯先生。彼女も、この春、この学校へと転勤してきたらしい。
大人でも、新しい場所に移動するとなると、緊張するものなのか。新任、というわけでもなさそうな年齢で、学校が変わるのを体験したのも、一度や二度じゃないだろうに。
廊下の突き当りに近い教室の戸を開け、「皆、おはようー」と土湯先生が入っていく。
「今日から転校生がこのクラスに加わります。皆、仲良くしてね」
ざわざわと騒がしかった教室が、一層にぎやかになった。
教室に入ると、一斉にわたしが注目の的となる。嫌な視線は感じないものの、好奇心や興味ばかりを向けられても、それはそれで落ち着かない。
「じゃあ、黒板に名前を書いて、自己紹介して」
わたしは土湯先生に言われ、チョークを手に取る。黒板に名前を書いていくにつれ――教室のざわめきは、だんだんと小さくなっていく。予想はしていたけれど、こうも露骨な反応が返ってくるといたたまれない気持ちになる。
――六月一日愛姫。
普通、とは絶対に言えない名前。「私が産んだんだから好きに名前を付けさせて」と母親がごねてつけたという名前は、愛に姫とかいて『プリンセス』と読む。わたしは自分の名前が本当に嫌いである。珍しい苗字も相まって、おおよそ、現実の名前とは思えない。父とは良好な親子関係だけれど、この名前を付けた母を止めてくれなかったことだけは、本当に恨んでいる。
うりはり、ぷりんせす。
名前の横に振り仮名を書くと、教室が静まり返り、一人として喋る人はいなかった。
変わった名前で、気に入っていないからできれば苗字か、読みを変えて『あき』と呼んで欲しい。
そう紹介しようと、チョークを置いて振り返ったとき。
教室に座るクラスメイトの顔は、一様にして、驚きと――なぜか、恐怖の色に、満ちていた。
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