推し活の死活問題

オニキ ヨウ

推し活の死活問題

推し活は金がかかる。

推しのライブ代、推しのグッズ代、推しがすすめる品物を爆買い、推しに会うため自分を磨く。



そんな俺はいつも金欠。ついに闇金に手を出した。

借金は膨れ上がり、普通のやり方じゃ返済できなくなった。



仕方なく俺は、一世一代のギャンブルに身を投じ、サイコロを振っている。

この賭けに負ければ、地下の収容施設で一生を送るハメになる。



周りに似た境遇の奴らがつどい、一発逆転を目指して順番を待っている。



「佐藤君はどうしてここに来ちゃったわけ?」

ヒソヒソ声で田口さんが尋ねる。



「俺みたいに会社が倒産したわけじゃないだろう? こんな借金、どこでこさえた?」


「推しの地下アイドルがいたんです。チカちゃんって子で……メジャーデビュー目前に金が必要になって、握手券つきCDを何千枚も買っちまった」



「デジタルな時代に、アコギな商売をするもんだ」



「俺、後悔してません。それでチカちゃんが武道館に立てるなら」



「でも、地上に戻りたいだろう?」



「もちろんです。早くシャバに戻って、チカちゃんのライブを見にいくんだ!」




サイコロを振る。

くそっ、ヒフミか……!




周りの空気がざわめく。



地上への道は、近づいたり遠のいたり、そのたびに俺たちは一喜一憂し、希望や気力がすり減ってゆく……。




俺の博打運ばくちうんもここまでか、と諦めかけたところ、田口さんが隠し持っていた携帯電話を見せてきた。




そこには、チカちゃんのゴシップが……!




俺はサイコロを取り落とす。



「佐藤くんを励まそうと思って、話に出たアイドルを調べていたんだ。大物俳優との不倫、新人アイドルと六股、港区でパパ活、新宿で立ちんぼ……」



田口さんの声は震えている。


「あんたのチカちゃん、とんでもないモンスターになってるぞ!」




俺は言葉を失う。頭の中が真っ白だ。



チカちゃんが、モンスター……?



田口さんは我に帰り、慌てて別のサイトを見せる。


それは謝罪会見の動画で、チカちゃんが頭を下げ、

「地下アイドルからもう一度張りたい」と涙ながらに詫びていた。



つまり、彼女のキャリアは、振り出しに戻ったというわけだ。

俺のかけた金も虚しく……。




「佐藤君、何を見ているんだい? イカサマはいけないよ」

対戦相手の係長カカリチョーが、田口さんから携帯をぶんどる。




画面を見る係長。

おおっ、と声を上げる。



「チカちゃんじゃないか!」


「係長、チカちゃんを知っているんですか?」


「知ってるもなにも、3日に1度はここに来てるよ」


「ええっ!?」


「あんたたち知らないのか? 彼女は地下アイドルなんだぞ。当然、地下収容施設にも来るだろう」


「そうか……!」



「地下牢、気に入ってるみたいだぜ」

係長の手下Aが言う。


「俺たち娯楽に飢えてるから、すごい盛り上げるもんな」

係長の手下Bが言う。


「ここは居心地がいいって、上機嫌でサインや握手をしてくれるよな」

係長の手下Cが言う。




「余談はここまで!」


係長が手を叩くと同時に、俺はサイコロをぶん投げた。



金の悩みから解放されると、一気に気持ちが軽くなった。



金輪際こんりんざい、ギャンブルはしない! 

金もいらないし、地上にも戻らない!



俺は次回の慰問いもんライブのために、いそいそと支度を始める。

地下労働で鍛えた身体はいい感じに引き締まり、紫外線や乾燥と無縁の肌は血色が良い。




気分爽快。

断酒、禁煙したためか、体調も絶好調だ。



「田口さん!」

俺の声は自信に満ち溢れている。



「俺の代わりにサイコロを振ってくれ。トータルで計算すると、まだ勝ち目はある。地上を目指して戦うんだ!」


「佐藤くん……!」


「俺は地下に潜る! これが俺の幸せだと気づいたから!」



遠くから聞き覚えのある歌声が聞こえる。


慰問は今日も行われているようだ。

俺はその声を頼りに走る。



薄暗い地下通路が、黄金に輝き、栄光への道に変わろうとしていた。

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