第27話 複合ビルと鏡と無くした体
石倉の突然の回答に戸惑う信長を尻目にシロワカが言葉を紡ぐ。
「もう一度、見せてくださいニャ」
「ああ、わかった」
石倉とシロワカは再生のボタンを押し再び見入った。
「その体、ノブの事すり抜けたんだよ」
「俺も色々と魔法で足止めを試みたんだが、まったく効果なかった」
「……」
一人と一匹はそれに反応もせずただただスマホに見入る。
「トイレでこちらを見ているのが気になるニャ」
「そうだな、まるで撮影しているのに気付いているようだ」
「霊体なら気付かないか、もし気付いたとしたら何かしら訴えるような反応をする事が多いニャ」
「うむ、身体は何処にあるのだろうか」
「でも、五体が破壊されてなくってよかったにゃ」
「それは本当にありがたい。 とても心配していたのだ」
興奮して話す一人と一匹の話に沸き上がった質問をぶつけた。
「体はそこには無いのか?」
「恐らく無いニャ」
「ある場所に案内しようとしているんじゃ」
「その可能性はあるが、どちらにしろこちらの世界ではない」
「歪んだ空間から漏れ出た幻影のようなものだと思うにゃ」
「その、幻影の漏れた所って分からないの? 身体を取り出す入口になるでしょ」
「いりぐち……いりぐち……もしや!」
入倉が急に周囲に響き渡るような大声を上げる。
「鏡だ! この建物のどこかに以前失敗した異世界のトビラの入り口になる場所――鏡があるのではないか」
「可能性はあるニャ。 でもどうやってそのトビラをこじ開けるニャ?」
「ふむ」
「開いたらまた失敗して体を失う可能性もあるにゃ」
石倉は黙ってしまった。
「にゃーは石倉にゃんの事を気に入ったからにゃーの事祭ってくれるなら仲間に聞いてきてもいいにゃ」
「何! それは助かる。 しかしだな、そういうのは成功してからだ。 体を取り戻せたら信長君のように部屋の一角に神棚を作ろう」
「うー本当かニャ?」
「約束する」
「契約だニャ」
「うむ」
「では、数日待ってて欲しいにゃん」
そう言い終わるとシロワカは数歩ばかり歩いたかと思うと体のコントラストが薄くなってゆき、みるみる間に大気に溶けていった。
「消えた」
驚く信長とサニアに石倉は「その建物に案内してくれないか」と頭を下げてきた。
石倉からは切実な思いがその態度から伝わり、信長は笑いながら親指を上に立てグーのポーズを取りながら「任せろ」と力強く言った。
それから数日後
信長はビルのオーナーにアポイントを取って再び会いに行く。
「この間はどうでした、あの後……」
「大丈夫でしたよ、呪いとかは無いみたいです」
「それは良かった、でもどうしたら……」
困り顔のオーナーの顔を覗き込み、一つ提案をした。
「私が今日も夜間待機して、あの幽霊らしき者を知り合いの巫女さんに見てもらおうと思ったのですがどうでしょうか?」
「巫女?」
困惑したオーナーは言葉をこだまのように返した。
「はい、バイトで仮装したなどではなく、私の地元の高校の同級生でして、相談したら見てみたいと話してまして、どうでしょうか?」
「……はあ」
府が抜けた声を出し、信長の顔を見上げる。
「と言いますか、こちらの事情もありまして、会社の上司が幽霊を信じてくれないのです」
とお願いし頭を下げた。
事実西田は見間違いだろと言って聞かずあげくの果てにはお前が臆病だからカーテンか何かが幽霊に見えたんだろうと切り捨てられていた。
そこで初めてオーナーは少しばかりの笑顔を見せ「分かりましたお願いします」と答えてくれた。
その夜。
「さてと、今日もこのソファーで休憩しますか」
前回と同じように小さなテーブルを拝借してそこに夜食やら飲み物やらを置く。
「もう大丈夫かニャ?」
シロワカはカバンからひょいと頭を出すと周囲を見回す。
「うむ、ここかぁ」
空間を割って石倉が入って来ると空気が一変した。
「申し訳ない、そういう話をしちまったもんで」
そういう話とは巫女の事である。
「フッまあいいさ、こういうのも悪くない」
巫女衣装を着た石倉はくるりと回転しポーズをとった。
「ねえ、なんで扇もってんの? 普通は棒に白い紙がぴらぴら~って付いたの持ってない」
「サニア君、君はまだまだだね、君の言っている棒の先に紙がついてるというのは御幣の事だと思うが、除霊は私の中では扇で行うものだ」
石倉の言動にカチンときたサニアはすぐさま言い返す。
「ふーん、じゃあれはやっぱり幽霊な訳だね。 キッチリ除霊しないと」
「んなわけあるか! あれは私の体だ!」
「なによ、除霊って言ったじゃない!」
「きみねぇーそこは言葉のあやというものがあってだね」
「そこまでにゃ! まずはみなで鏡をみていくにゃ」
「はーい」
「了解」
シロワカに諭されて映像に写っていた鏡から見て回ることにする。
「特に異常はないね」
「ここ以外はどこかにゃ」
「目撃情報はここのフロアのこのトイレ周辺と上の階のフードコートあたりだそうだ」
「じゃあ、フードコートにいってみるにゃん」
シロワカに促されて電源の止まったエスカレータを上ってゆくと目的のフードコートがある。
ここのフロアは飲食店が軒を連ね、一部のお持ち帰りの物を食べるための飲食ゾーンが設置してある。
「目撃情報は、このフードコートだとの事だ」
「当然トイレはあるよなぁ」
「鏡か」
もし店舗内の鏡だったら店が閉まっている今は見ることができない。
「とりあえず、このトイレに入って確認してみよう」
「そうだな」
みなで男性トイレの鏡を確認する。
「ここも異常はないにゃ」
「トイレの個室を確認するからノブ着いてきてよ」
「へーい」
突然石倉が立ち止まる。
「アブねぇ、どうしたんだよ突然」
石倉を見ると、目には驚きと確信と喜びとが混じった視線を鏡に向けていた。
「――見つけた。 見つけたぞ。 とうとう見つけた」
興奮気味に初めは呟き、ついで興奮、最後にほぼ咆哮という大声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます