第11話 石倉との誤解話

 その日以降、時々石倉が家を訪ねて来ては色々と話をし、帰る時もあれば止まっていく時もある状態になった。

 そのころには石倉の会社の入ったビルは入れるようにはなったのだが、なにせ殺人が起こったという事もあり、職員に退職者が続出しその流れで石倉自身も退職してしまった。

「そういえば、樋口さんは出てこないの?」

「ああ、まったく」

 石倉は暇な時間ができ一日入り浸っていることが増えたが、サニアにとって話し相手ができたのはよかったのかもしれない。

「行ってきます」

 会社に着くと北口とその他の女性社員が信長を見て歪んだ笑いを浮かべていた。

(また何かあったな)

 うんざりする騒動にかられながらパソコンの電源を入れた。

「書類の山をかたずけながら、それに合わせて入力を続ける」

 終業時刻になり、みな帰り支度を始める。

「さあて、帰るか」

 やはり周囲の視線がおかしい。

 異世界で傭兵をしていただけあり、気付かないと罠に嵌められたりして命を落とすことにつながるため、信長は周囲の変化はいち早く気付くようになっていた。

 ただ今回の件はそこまで致命的ではないとして当面は気付かぬふりをしておこうと考えていた。

「ただいま」

 家に帰ってき次第、サニアと石倉の争いの声が耳をつんざいた。

「だから、アンタが噂話になっているんだって」

「ソースは」

「ソース? 何それ」

「情報も出元の事だ」

「だから、会社で……」

「噂話はソースにならない、私が若いころは2ちゃ〇ねるに入り浸っていたころ何かを言えばソースを求められエビフライを投げられたものだ」

「エビフライ?」

「ああ、ソースだからな、シャレってやつだ。 出せなきゃ嘘つき呼ばわり、ソースがサ〇ゾーやら実〇なんかだったら滅茶苦茶煽られて名器度とかバカにされたもんだ」

「はあ、さいでっか」

「ああ、そうだ」

「でも、アンタとノブが付き合っているって噂話にソースなんている? ノブの所に行ったときに北口のババアが手下どもと話していたことだよ」

 サニアのその会話を聞いて、今朝からの周囲の妙な視線の正体が分かった気がした。

「大体週刊誌に一般人の恋愛話なんて載るわけないでしょ」

 石倉は顎に手をやりしばらく考えると「それもそうだな」と納得した。

 したのだが、別の苛立ちが脳天から噴き出してきたらしく大声で文句をわめき散らす。

「時々全然見当違いの噂話を流す奴がいる。 まあ、たしかに恋愛関係のことが多いが、頭のいい奴はバカを理解できるが、バカは頭のいい奴を理解できない」

「大きな器は小さな器を入れられるが、小さな器は大きな器を入れられない……同じことだ」

「恋愛関係が多い理由は単純に恋愛はバカでもわかるからだ、それ以外にない」

「もし、頭がいい者なら噂話など間違っていた時の危険性を恐れて簡単に流さない、ましてや自分にとって利益が無い恋愛関係ならなおさらだ」

 うんざりしたサニアは信長を見つけると疲れた顔を隠す事無く「ノブの会社にさ……」と話を投げてきた。

「かなりの大声だったんで聞こえたよ」

 信長の指摘に顔を真っ赤にしながらサニアは俯いた。

「でも、教えてくれてありがとう、今日会社行ったらみんなの様子が変だったので何事かと思ったから」

 サニアの頭を撫でると、少しばかりはにかんだ笑いを浮かべグルグルと周囲を飛び回った。

 石倉の方はというと……。

「一部の女性はすぐにマウントを取りたがる、しかもそのマウントは自分が努力して勝ち取った学歴や資格などならまだしも、付き合っている男や旦那、子供の外見やら年収やら学歴などお前はなんの努力をしたのだという事でマウントを取る」

「実にくだらない」

 相当気に入らなかったのか、結局石倉はこの後も寝るまで文句を言い続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る