第9話 コンビニくじ

「ねえ、ノブたまにはくじを引こうよ」

 自宅近くのコンビニに振込をしに店に入ったところサニアが珍しいお願いをしてきた。

「えーと……くじと言えば……あれか?」

 今回のくじは少しばかり前に流行った長寿のエルフが仲間と旅をする物語のものだ。

 信長自体はその漫画は見たことは無いのだが、大まかなストーリーは情報として入ってきていた。

「ああ、わかった」と視線で語る。

「この支払いと、くじを5回お願いします」

「えっそんなにいいの?」

「はい、こちらです」

 店員がくじの入った箱をレジ裏から持ってくると、カウンターへゆっくりと置いた。

 サニアは会計を行っている信長を尻目に目をキラキラさせてくじの箱を覗き込むと、しばらくして会計の終わった信長に視線で合図をした。

「流石にくじがひとりでに空中に浮いたらマズいからさ、ノブの手で持った風にしてくれない」

 信長は目で分かったと合図をすると、サニアの入れた手が待っているくじを五つ引き出した。

「よし、めくるぞ」

 ペリペリとくじをめくると、一枚だけC賞とE賞がありのこりはF賞のはずれだった。

「CとE、Fですね、少々お待ちください」

「やっぱり、A賞は出ないもんだね」

「まあ、向こうも商売だから」

「だね」

「こちら複数の景品がありますので、この中からお選びください」

 C賞はフィギュアではなかったが、そこそこ大きいタペストリーでE賞はアクリルスタンドF賞はキーホルダーだった。

 店員が持ってきた商品を一目眺め、Cはこれっと指さした。

「残りのEとFはこれと、これと、この二つ」

 サニアの選択通りに店員に伝えると、その商品を受け取ってコンビニを後にする。

(たしか感情の起伏が無い長寿のエルフと、人間の勇者の話だということは知っているが、サニアにとって琴線に触れる何かがあったのかもしれない)

「ただいま」

 サニアはタペストリーを信長の手から掻っ攫うように奪うと、掛ける場所を決めていたのか寝室に一目散へ飛んで行った。

「ふふっ」

 サニアは上機嫌でタペストリーを寝室の見えやすい位置に掛けて満足そうに眺めている。

「そこに掛けたのか。 それはサニアにとって欲しかった物だったの」

「うーん、やっぱA賞が欲しかったけど、これはこれでイイ!」

 タペストリーには主人公のエルフとその仲間たちが旅をしている姿が印刷されていた。

「あっそうだ、このアクスタあげるよ」

 魔法によりサニアの手からふわふわと信長の目の前に運ばれてきた。

(俺が買ったものなんだけどなぁ)

 貰ったアクリルスタンドは男性の剣士のようないで立ちのキャラの物だった。

「何だい、俺に似ているキャラなのかい?」

「あまり似てないかも」

 あっけらかんと言い切るサニアに少々拍子抜けするも、機嫌よくタペストリーを眺める姿を見てどうでもよくなった。

(やっぱり旅がしたいのかな)

 本人が望んだとはいえ、サニアを連れてきたのは正しかったのか。

 誰からも認知されない透明人間ってどんな気持ちになるのか。

 サニアが見えていたような口ぶりの石倉を思い出し、機会があったら妖精の仲間がどこかにいないか聞いてみようと思った。

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