第8話 帰宅後……

「なんかさぁーノブから女の匂いがする」

 帰宅後開口一番ジト目のサニアからの追及が始まった。

「ネコみたいだな」

「何か言った?」

「いや、何も」

 いつもは口数が多く言葉のデッドボールがギュンギュン投げつけられる感じなのだが、今日はムスッと黙り込んでぽつぽつ言葉を発する追及的な怒り方なので職場の上司の様でとても疲れる。

「それで、今日はどんな仕事をしてきたの?」

「ああ、ビルの点検中にドラゴンが出たので戦ってさぁ、石倉さんが助けに来た」

「本当かなぁ」

 訝しむサニアを前に口笛を吹いて小太刀を出す。

「あっ何それ?」

「石倉に魔法をかけてもらったのさ」

「すごいじゃん」

 驚きのあまりサニアの顔から怒りの感情が消え去った。

「今日さ、刀無くって殺されそうになったから」

「えっ」

 サニアに詳しく戦闘状況を話した。

「……そう」

 落ち込むサニアに買ってきた弁当を取り出す。

「弁当どっちがいい」

「何を買ってきたの」

「ハンバーグ弁当と、炒飯」

「うーん、ハンバーグはノブが食べなよ、私は炒飯でいい」

 いつもと違う反応に戸惑いながらも弁当をレンジに突っ込み温め始めた。

「ああ、わかった」

 ベルを叩く音と共に湯気を燻らせた弁当が出来上がる。

「お茶入れるぞ」

「あんがと」

 信長がお茶を入れている間に、サニアは炒飯に魔法をかけ小さくして食べ始めた。

 コトン

 サニアの前にお茶が置かれると、魔法で小さくして口を付けた。

「あちぃ」

「すまん、大丈夫か?」

 サニアは、大丈夫と答えた後ちびちびと少しづつ飲みだした。

「ところで、なんで俺がハンバーグ弁当なんだ」

「んー特別な日だからかな、命拾いした」

(気を使ってくれているんだな)

 サニアは食事を終えると、タブレットをスライドさせつつ信長に質問をする。

「ドラゴンが来れたってことは、相当大きな空間の歪が開いたわけだよね」

「恐らくはそうだと思う」

「多分今回が初めてだよね? 異世界からデカいのが来るのって」

「ああ、そのことは石倉さんにも聞いて、向こうも経験ないらしい」

「ひょっとしたら、それって召喚なんじゃないの」

 信長はナルホドと思いつつも疑問点がある。 召喚、特にドラゴンはかなりの上級召喚魔法で並みのものでは使える魔法ではない。

「うーん、誰が?、目的は?」

「それは……わからないけど」

「まあ、可能性としてはありうるよね」

「ふふ、そうだね」

 召喚は動物飼育と似た部分があり、信頼関係が出来てないと呼んでも来ないことなどザラである。

 また魔法使いは学者気質が多く、弟子を取るなど他のものとかかわるのを極力避ける人間は多い。

 野良の魔物を強制的に呼ぶだけ呼んで放置する迷惑系の召喚士はいることはいるのだが、召喚した魔物が暴れまわったりして結果的に嫌がらせになることが多く、報復などを避けるため表に出てこないので異世界でも存在を確認するのはまれだ。

「そいえば、よく気が付いたね石倉って人」

「なんでもドラゴンだから瘴気の反応が凄かったらしい」

「ノブも気付いたんでしょ」

「俺は建物はいるまで気が付かなかったよ」

「賢者ってすごいね」

 サニアは相変わらずタブレットから目を離さないで会話しているが、こちらの言う事を完全に理解しているのはなかなかにしてすごい才能だ。

「風呂入って来る、体中埃だらけだ」

「行ってらっしゃい」

 その後はつつがなく一日が終了した。

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