第2話 巨大ゴキブリ退治
「今日は何も無かったから早く帰ろう」
仕事を押し付けられる前に、とっととずらかろうと考えた信長は、速攻で会社を出て家路へ向かう。
「いえーい、今日は早いね」
「そう毎日残業してたまるか」
と言いたかったのだが……。
「気配がするね……」
「ああ……」
駅のアーケード内の居酒屋の裏から猛烈な気配を感じる。
「どうする?」
「ほっとくわけにはいかねーだろ」
警戒しつつゆっくりと踏み込むと、空間が歪んでいるような感覚に襲われた。
「何か変だよここ」
サニアはしきりに辺りを見回して、奇襲されないよう警戒する。
「む……」
「キャーゴキブリ―」
敵の発見とサニアの悲鳴が同時に上がる。
声に反応したのか、いきなり巨大ゴキブリが羽をばたつかせて飛行タックルををかましてくるも、それを横に飛んでかわす。
「くっ」
地面を三回転ほど回ると、その勢いを駆って立ち上がる。
ジャケットの裏をまさぐった。
「よし、あった」
ジャケットから愛用のワンドを抜く。
以前流行ったイギリスが舞台のマリーカッターと同タイプのものだ。
(たしかゴキブリは油の塊だったはず)
信長は以前ネットで読んだゴキブリに火を付けたら、のたうちまわって火事になった話を思い出した。
ゴキブリは優に人の背丈ほどある。
「雷の精霊、パルに願い奉る……」
巨大ゴキブリは、今度は飛ぶことなしに六つの足をシャカシャカと躍動させ信長に迫る。
「サンダー」
高圧に晒されたゴキブリは足をもつれさせひっくり返った。
「もう一発」
ビリッ
二発目を浴びるとゴキブリの足はピンと空高く伸びた。
伸びたかと思うとすぐに折りたたまれてのちその姿が見えなくなった。
「ホントサイアク」
サニアが憤るも、信長が「やったのは俺だから」というと静かになった。
「アンタ、背中汚れているよ」
「……マジかぁ、どんくらい?」
「背中にベッタリ」
「ホントサイアク」
「私の真似すんな」
「クリーニングかぁ」
「だね」
翌日
「あれ、佐藤スーツちがくね?」
東島が相変わらず軽いノリで来た。
「昨日、転んでさ」
「アハハ、ウケる、ドコで?」
東島は必要以上に大げさに手を叩き笑い転げた。
「うちの駅前の居酒屋」
「仕事やってた方がよかったんじゃね?」
「どうだろうね」
(違うスーツだから変な部分でもあるのかな)
信長は鏡で確認するためにトイレに向かった。
「東島って言ったっけ? アイツ絶対広げるよ」
いきなりサニアが苛立ちながら横から顔を出す。
「だろうな。 口軽いし」
「ほんっと、ムカつく、ノブの事馬鹿にしやがって」
「気にしてないから」
「あたしが気にするんだよ! バンバン手を叩きやがって、浅草に売ってるサルのおもちゃかよ! 今度シンバルと笛をあげれば理解するんじゃないの」
サニアが悪態をつき続けるも、信長はそれ以上関わる事なしに仕事へ戻った。
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