第17話 ニア

「アカネじゃなくても言うことを聞いてくれる?」


 彼女の部屋でふたりきりになると、ニアが確認してきた。この女は、旦那であるサンザから酷い暴力を受けてきたと聞いた。暴力を受けても逃げられない、典型的な依存症だったようだ。


「ええ、もちろんですお嬢様」


 俺はとにかく下手に出る。ニアを暴力で従わせること自体はおそらく簡単だろう。拳を振り上げただけでこの女は俺に従属するかもしれない。ただ、寝取りを行っているくせになんだが、それはクズのやることだ。同じクズでもそこまで落ちたくはない。


 パシン!――といきなりニアに頬を打たれた。


 パシンパシン!――と続けざまに。ただ――


「痛い…………」


 それはそうだろう。男が俺を殴っても痛がるくらいだ。ニアはアンネミラのように体を鍛えている様子は無い。魔術師らしいからな。


「お嬢様、お見せください。――ああ、これはいけませんね」


 そう言って小さな手を包み込み、フウッと息を吹きかける。

 ニアは身を引こうとしたけれど、優しく逃がさないようにさすって自分の頬を添える。

 ニアが抵抗しなくなると、仕上げに触れるような、ただ、音のするキスをして手を離した。


「――いかがでしょうか?」

「…………大丈夫……」


 ニアは小さなテーブルの上にあった葡萄酒を口にして、ふぅと息をひとつく。


「――あの、……アカネのこと、聞いていい?」

「なんなりと」


「アカネって、ベッドの上では情けない?」

「……と、申しますと?」


「アカネ、いつも優しくて、しっかりしてて、剣士としても強いのに…………サンザもよく目で追ってる。女らしくてズルい……」


 ああ、そうか。ニアはなんだろう。特別なものを何も持っていないと思っている普通の女。美しく、強いアカネのような女が羨ましくて憎い。こういう女は扱いやすい。サンザから逃げられないのも当たり前だ。


「そうですね、情けないというよりは、詰まらない女ですね」

「詰まらないの?」


「ええ。反応の薄い、マグロってやつです」

「マグ……なに?」


 日本の言葉はときどき微妙に通じないことがある。


「男というものは、女の反応を見て悦ぶ生き物なのですよ?」

「そうなの? でも、サンザは私の事なんて見ない……」


「足をお出しください」

「足?? なんで??」


「皆さん、靴を脱いだり、足を見せるのを恥ずかしがりますよね」

「そんなの、当たり前だし……」


「当り前なんて言葉は勿体ない。私には、その反応ひとつひとつがご褒美なのですよ」

「ご褒美…………」


 さあ――とブーツを脱がせていくと、中の熱と共にふわりとハーブの香りが舞う。ここの連中は、男も女もブーツや深めの靴ばかり。それなのにアンネミラも、ニアも、皮革の匂いはさせても足の臭さがない。余程足の清潔を正しく保つ習慣が根付いているのだろう。


 太腿の奥へと手を滑らせ、ガーターベルトを外す。さらに長靴下を抜き取っていくと、ニアは脱がされていく靴下に目が釘付けになり、息も荒くなっていく。


「ひゃっ……」


 小さく漏れた悲鳴は、俺がニアの爪先に口づけたから。


「んんんんっ…………」


 脚を震わせながらも振り払わない。俺が足の指の裏側に舌を這わせたから。


「ほおおおっ…………」


 太腿をこすり合わせながら、爪先の高さを維持するニア。指の付け根に滑り降りたから。


「よい反応ですね、

「ふぁい……」


「見ていてあげますから、ニアの全部を見せてください」


 コクリとうなずくニアは、着ていた物をつぎつぎ落としていった。

 十分に視姦してから彼女に俺の服を脱がさせると、今にもしゃぶりついてきそうな目をした彼女をそっと抱き上げ、お姫様を扱うようにベッドへ運んでやった。


 アンネミラの時のように途中から態度を変えたりせず、目覚めるたびにニアを優しく抱いてやり、頃合いを見て尻の魔道具を壊して抜いてやった。異物を抜き去られた彼女は、恍惚とした顔で言った。


「サンザにみさおなんて立てる必要なかったんだね……」






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