第10話 孤独を包む温もり

洞窟の中は静寂に包まれていた。ルナの震えが、僕の腕の中で次第に落ち着いていくのを感じる。彼女の体温が、僕の存在を確かめるように、ゆっくりと僕の体に伝わってくる。僕は、彼女の金色の髪をそっと撫でた。僕の抱擁に応えるように、彼女は僕の胸に顔を埋めたまま、小さな、今にも消え入りそうな声で呟いた。


「私、ずっと一人だと思ってた。私の魔力は、みんなを不幸にする呪われた力だって…」


その言葉は、過去の記憶がまだ彼女の心を深く蝕んでいることを物語っていた。僕の心にも、彼女の悲痛な叫びが響き渡る。だが、僕はもう、彼女を一人にはしない。僕は、彼女の言葉を遮るように、静かに、しかしはっきりと答えた。


「それは違う。君の魔力は、君自身だ。そして、君は、決して不幸なんかじゃない」


僕の言葉に、ルナはゆっくりと顔を上げた。その瞳は、まだ少し潤んでいたが、そこには以前のような絶望の色はなかった。僕は、彼女の瞳をまっすぐに見つめ、言葉を続けた。


「君の魔力は、君の感情に反応する。悲しみや絶望が強ければ、それが形になってしまう。でも、それは君が弱いからじゃない。それだけ、君の心が豊かで、強く、そして繊細だったからだ」


ルナは、僕の言葉の意味を理解しようとするように、じっと僕を見つめていた。僕は、彼女の手をそっと握り、僕の魔力を彼女の手に流し込んだ。僕の魔力は、温かい光となって彼女の魔力と混ざり合い、洞窟の壁に美しい模様を描き出した。


「見て、ルナ。僕の魔力と君の魔力が混ざり合って、こんなに綺麗な光になる。君の魔力は、誰かを傷つけるためだけのものじゃない。誰かを温かく照らす、光にもなるんだ」


ルナは、僕の言葉と、二つの魔力が織りなす光景

に、息をのんだ。彼女の顔に、幼い頃のような、純粋な驚きと、そして希望の光が宿った。


「私の魔力が…光に…」


その瞬間、僕の頭の中に、再びウィンドウが表示された。

【クエスト:ルナの心の闇を光に変えよ】

【達成条件:ルナに本当の愛を教える】

【達成率:20%】

クエストの達成率が、わずかに進んでいた。ルナの心の闇は、まだ完全に消えたわけではない。しかし、彼女の心に、小さな光が灯り始めた。その光は、これから僕たちが一緒に歩んでいく未来を、ほんの少しだけ照らしてくれた。

ルナは、僕の手をぎゅっと握りしめた。その握り方には、以前のような怯えはなかった。そこには、僕を信頼し、僕に希望を見出そうとする、彼女の強い意志が込められていた。


「アキラ様…私、頑張る。アキラ様と一緒に、私の魔力を、光に変える練習をする」


彼女の言葉に、僕は微笑んだ。僕のクエストは、まだ始まったばかりだ。しかし、僕の隣には、僕の存在を必要としてくれるルナがいる。そして、僕もまた、ルナを必要としている。この洞窟から出る頃には、僕たちは、以前とは違う、新しい関係を築けているだろう。

僕は、ルナの頭を優しく撫で、言った。


「ああ、一緒にやろう。僕がそばにいる。もう、君は一人じゃない」


そして、僕たちは、洞窟の出口へと向かって、ゆっくりと歩き始めた。外には、どんな未来が待っているのだろうか。ルナの瞳に灯った光が、その答えを教えてくれると信じていた。

(ルナ視点)

アキラ様の手は、温かくて、とても大きかった。過去の記憶の中で、誰からも拒絶され、孤独に震えていた私の心を、彼の温もりが溶かしていく。私の魔力は、私の感情そのものだった。悲しい時は、バラを禍々しい姿に変え、リリアを傷つけた。でも、アキラ様が触れてくれた時、私の魔力は、初めて温かい光を放った。アキラ様は、私の魔力を「光」と呼んでくれた。

アキラ様と繋がった手から、彼の魔力が流れ込んでくる。それは、私の魔力とは全く違う、温かく、そして力強い光だった。その光が私の魔力と混ざり合うたびに、私の心の奥底に沈んでいた、リリアを失った悲しみや、父様から拒絶された絶望が、少しずつ薄れていくのを感じる。

私の魔力は、私を苦しめる「呪い」だった。けれど、アキラ様は、それを「私自身」だと言ってくれた。そして、私の魔力は、光にもなれると教えてくれた。アキラ様は、私が一人ではないことを、言葉だけでなく、その温かい手と、彼自身の魔力で示してくれた。

アキラ様と二人で、出口に向かって歩きながら、私は過去の自分を振り返る。あの頃の私は、自分の魔力を恐れ、ただひたすらに父様や母様の愛を求めていた。リリアが私の魔力を美しいと言ってくれた時、私は初めて、自分の力が肯定されたような気がした。けれど、私がリリアを傷つけた時、私の心は完全に閉ざされてしまった。

私は、愛を求めることを諦めた。誰かに愛されれば、その人を傷つけてしまう。愛とは、私にとって呪いだった。けれど、今、アキラ様は私を愛し、私の魔力を否定しない。彼が私を愛してくれるのなら、私の魔力も、誰かを幸せにできるのかもしれない。

アキラ様は、私の手を握りしめ、時折、僕がそばにいる、と優しい声で語りかける。そのたびに、私は自分の心が、少しずつ、少しずつ、温かくなっていくのを感じる。

洞窟の出口に近づくにつれて、外から差し込む光が、私たちの道を照らし始めた。その光は、まるで僕とアキラ様が織りなす光のように、柔らかく、温かかった。私は、アキラ様と共に、この光の先へ進んでいけるような気がした。

(アキラ視点)

ルナは、僕の隣で、まるで迷子の子供が母親に寄り添うように、僕の腕にそっと体を寄せていた。彼女の表情は、まだ少し不安げだったが、以前のような、全てを拒絶するような冷たさは消え失せていた。

洞窟を出た僕たちは、森の木漏れ日が降り注ぐ場所にたどり着いた。辺りには、色とりどりの花が咲き誇り、鳥のさえずりが聞こえる。ルナの故郷である、かつての屋敷の庭園とは全く違う、生き生きとした自然の風景が広がっていた。

僕は、ルナの手を離し、彼女の目の前にそっと手を差し出した。彼女は、少し戸惑いながらも、その手を握ってくれた。


「ルナ。まずは、君の魔力を、この花たちに分けてあげよう」


僕は、彼女の魔力を引き出すように促した。彼女は、少し怯えながらも、手のひらから微弱な魔力を放つ。すると、彼女の魔力に触れた花は、少しだけ色鮮やかになった。だが、それだけだった。


「ごめんなさい、アキラ様。うまく、できない…」


ルナは、悲しそうな顔で言った。僕は、彼女の肩を優しく抱き寄せた。


「大丈夫だ。君の魔力は、君の心そのものだ。だから、まずは君の心を、もっと満たしてあげよう」


僕は、ルナの額に、そっと僕の唇を触れさせた。ルナは、驚いて目を見開いた。その瞬間、僕の魔力が、彼女の体に流れ込んでいく。それは、彼女の心の傷を癒し、彼女の魔力を温かい光に変える、僕からの愛の証だった。


「アキラ…様…?」


ルナは、僕の名前を呼んだ。その声は、僕が初めて会った時よりも、ずっと柔らかく、甘い響きを帯びていた。僕は、彼女をもう一度抱きしめた。


「これが、僕が君に教えたい『本当の愛』だ」


その瞬間、僕の頭の中に、再びウィンドウが表示された。

【クエスト:ルナの心の闇を光に変えよ】

【達成条件:ルナに本当の愛を教える】

【達成率:50%】

僕とルナは、まだ道の途中だ。しかし、彼女の心に灯った光は、確実に大きくなっている。この旅の果てに、僕たちは、きっと幸せな未来を掴むことができるだろう。

僕は、ルナの手を再び握りしめ、この森を歩き始めた。僕の隣には、もう一人ぼっちじゃない、ルナがいる。そして、僕たちの手から放たれる温かい光が、僕たちの道を照らし続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

次の更新予定

毎週 日曜日 07:01 予定は変更される可能性があります

ヤンデレ公爵令嬢に懐かれました。どうやら彼女の呪いを解くには、僕がそばにいるしかないみたいです。 Ruka @Rukaruka9194

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ