ヤンデレ公爵令嬢に懐かれました。どうやら彼女の呪いを解くには、僕がそばにいるしかないみたいです。

Ruka

第1話 運命の出会いは、なぜか僕だけに見えるゲーム画面から始まった


目の前が真っ白になったかと思ったら、気づけば僕は鬱蒼とした森の中に立っていた。


「……は?」


視界の端に、違和感のあるウィンドウが浮かんでいる。半透明の青い画面には、見慣れたゲームのフォントでこう書かれていた。

【クエスト:この森を抜けろ】

【報酬:ポーション×1、銅貨×10】

ふざけてるのか? いや、待て。これは現実なのか? 僕は、ついさっきまで自室のベッドで、新作のファンタジーRPGをプレイしていたはずだ。それがどうしてこんな場所に?

冷静になろうと、僕はポケットに手を入れた。いつも持ち歩いているスマートフォン……ではなく、なぜか小さな木製の箱が入っていた。箱を開けると、中には見慣れたスマホが入っている。電源を入れてみても、画面は真っ暗なままだ。しかし、頭の中のウィンドウには、スマホが「アイテム:スマートフォン(破損)」と表示されている。その下には、ゲームでしか見たことのないアイテムリストが並んでいた。


「ポーション…? 銅貨…? なんだこれ…」


わけが分からず、僕はとりあえず頭に浮かんでいるクエストをこなすことにした。だって、ゲームだとクエストをクリアすれば、次に進めるんだから。

森の道なき道をひたすら進む。木々の間から差し込む光が、やけに鮮やかだ。その光が、僕の視界の端にあるウィンドウに「ダンジョン:静寂の森(初級)」と表示されていることを示している。まるで、僕の目がゲームのUIになったみたいだ。

そんなことを考えながら歩いていると、少し開けた場所に辿り着いた。そこには、一人の少女が倒れていた。銀色の長い髪が地面に広がり、白い肌が草木に埋もれている。どう見ても、この世界の人間ではない。アニメに出てくるような、完璧な美少女だ。だが、彼女の周りだけ、地面の草木が不自然なほどに枯れ果てていた。

そして、僕の目にだけ見えるのだろう。彼女の体から、禍々しい紫色のオーラが立ち上っているのが見えた。オーラは揺れ動き、彼女の周りの空気を歪めている。そして、頭のウィンドウにこう表示された。

【警告:魔力暴走の兆候あり】

【ターゲット:ルナ・エルメシア】


「ルナ…」


僕は思わず彼女の名前を呟いていた。彼女はゆっくりと目を開け、僕の姿を捉えると、恐怖に顔を歪ませた。


「どうか、近寄らないでください…」


か細い声だった。彼女は全身を震わせ、今にも泣き出しそうな表情で僕に懇願する。だが、僕の頭の中のウィンドウは、彼女に近寄ることを促していた。

【クエスト:呪われた少女を救え】

【報酬:…(現在ロック中)】

報酬がロックされている? これは、ただのゲームじゃない。そう直感した僕は、彼女の警告を無視して、一歩、また一歩と彼女に近づいていく。


「やめて…! お願いです、貴方に危害を加えたくないの…!」


彼女は泣きながら、僕から逃れようと必死に後ずさりする。だが、その足は既に限界だったのだろう。すぐに動けなくなり、再びその場に倒れ込んでしまった。僕は彼女のすぐそばまで行き、そっと彼女の頬に触れた。

その瞬間、僕の体に電流が走った。そして、彼女から立ち上っていた禍々しい紫のオーラが、一瞬でかき消えたのだ。代わりに、彼女の体を淡いピンク色の光が優しく包み込む。まるで、呪いが解けたかのように。


「え…?」


ルナは驚きに目を見開いた。彼女は、僕の手を強く掴むと、その瞳をじっと僕に向けた。


「貴方は…まさか、私を救ってくれる人?」


彼女の言葉に、僕は何も答えられなかった。ただ、頭の中のウィンドウに、新たな文字が表示されているのを呆然と見つめていた。

【クエスト:呪われたヒロインを救え】

【達成条件:ルナ・エルメシアと共に行動する】

【報酬:現代日本への帰還方法】

これが、僕がこの世界で生き残るための、唯一の道なのか?

僕は、戸惑いながらも、彼女の手に握られた自分の手を見つめ返した。そして、彼女の瞳に映る、期待と不安の入り混じった光を感じながら、この奇妙な運命を受け入れることを決意したのだった。

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