第2話

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「そういえば、智ちゃん、今日は随分と、めかし込んでるねぇ」


顔見知りの『風土記の丘農産物直売所』スタッフが、ニヤニヤと茶化す。


「デートですから」


昌智は軽く受け流した。


「いいなぁ、青春だなぁ。俺が学生の頃なんて男友達とバカやっててガールフレンドなんて夢のまた夢だったよ……」


スタッフが遠い目をしている


「なに言っているんですが、この前、お子さんが小学校の運動会で1位になった、って、幸せ自慢してたじゃないですか」


「そうなんだよ!子供ってもんは良いもんだよなぁ!」


話が長くなりそうなので、昌智は、思い出に微笑んでいるスタッフに軽くお辞儀して早々に退去する事とする。


「お子さん自慢、ごちそうさまでした。それでは失礼しますね」


昌智は駐車場へと向かい、愛車ホンダ・スーパーカブ C125 のサイドステーに装着されていたサイドバックを取り外し、容易に二人乗りできる様に改め、バックは最後尾に設置したリアボックスにしまい、跨った。


キーを回してセルボタンを押して発動機に火を入れ、ギヤを 1 速に入れる。


スーパーカブ C125 は独自の自動遠心クラッチを採用しているのでクラッチ操作は必要ない。


左足のシフトペダルの前側を踏むだけでニュートラル → 1 速 → 2 速 → 3 速 → 4 速とギヤが上がる。


逆にシフトペダルの後側を踏めば、4 速 → 3 速 → 2 速 → 1 速 → ニュートラルとギヤを落とせる。


一般的なバイクは踏むとギアが落ちる、上げればギアも上がるが、スーパーカブ C125 の場合は真逆となる。


昌智は 16 歳の誕生日に「普通自動二輪車免許(マニュアル)」を取得しており、排気量 400cc までのオートバイに乗る事ができる。


今日も父・昌鹿からホンダ CB400 SUPER FOUR を借りようとしたが「この色ボケが!」と叱られ、結果、高校進学時に兄から貰い受けた通学用バイク、ホンダ・スーパーカブ C125 で来たのだ。


「前を踏んだらギアが上がる」「後ろを踏んだらギアが下がる」とホンダ CB400 SUPER FOUR のギヤ操作からホンダ・スーパーカブ C125 でのギヤ操作に頭を切り替え、改めて操作する。


これから恋人・酒折連歌が待つ『酒折宮』神社へと向かうのだ。


重量物であるワインの配達を頼まれた事で、まず最初に『風土記の丘農産物直売所』に向かい、その後、『酒折宮』神社で恋人・連歌を拾い、最終目的地である摩利支天神社に行く、それが総距離 48.1 km の本日の行程だ。


これがホンダ CB400 SUPER FOUR ならば、馬力に余裕があるので自宅農園 → 酒折宮 → 風土記の丘農産物直売所 → 摩利支天神社 の最短距離で移動できたのだが、非力なホンダ・スーパーカブ C125 では、ワインを乗せた上での二人乗りは難しい。


昌智は 16 歳の誕生日に「普通自動二輪車免許」を取得していたので免許取得から 1 年以上、という二人乗り許可の条件をクリアしており、かつホンダ・スーパーカブ C125 も、ギリ二人乗り可能な排気量を有してはいる。


同じスーパーカブでも排気量が小さいスーパーカブ 50 では二人乗りできない。


二人乗りの条件であるピリオンシート(タンデムシート)も、連歌を恋人にした時にホンダ純正を設置済みで、彼女用のヘルメット『石野商会 Small John Jet』も購入してある。


昌智の自分用ヘルメットは『アライ S-70(白:チンカップ付き)』、そして英国ハルシオン社のビンテージゴーグルを使用していた。


これは父・昌鹿の愛読書、望月三起也の漫画『ワイルド7』の主人公・飛葉 大陸の恰好を自分なりに真似た結果であった。


“飛葉ちゃんはカッコいい”が父・昌鹿、兄・昌信との共通認識であり、山縣家男性の総意となっていた(昌智は髪型も“飛葉ちゃん”を真似ている)。


今日は、デートなので ZARA のストレッチシャツ(白)とストレートフィットパンツ(黒)、WILDWING のライディングブーツという、シンプルながら清潔感を演出した出で立ちだ。


出発前に妹・桜にチェックしてもらい「まぁ、ギリ OK 」とのお墨付きも無事いただいていた。

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