短歌 最終章

佐藤万象 banshow.s

余りあるもの


生きるとは過酷なるもの この一年生きる証を失いながら


そして冬 欲するものはささやかな陽だまりなりき 肌寒き朝


病みつつも永い歴史を携えて永らえているわが身哀れむ


生きるとも死とも思える焦りある 還暦とは大いなる流れの一部


如月の この暖かき日の一日を部屋に篭もりして何をか想う


虚しさに耐えざりしかば何を問う 心の底の深き部分に


の身をばいかに戒め余りある まだ若さには負けてはおれぬ


若さゆえ成し遂げること出きざりき さまざまなこと残れる記憶


あの時が運命のはざま 確かなる後ろ姿に気づかざること


宇宙の果てと魍魎の類いと出遭いたる 生死賭けたる命を極む


悔やんでも悔やみきれない想いあり 老いて現在残る懺悔は光


余りあるもののすべてはあの森に放棄てはどうかと誰にか問わん


成せるべきすべての業はわが手より離れて行かんなす術もなし


酔いどれていずれ死すとも悔いなしと考えいしは過去のことなり


いまはただわが行く末を見極めん この身の果てる日の来るまでは


『役割』は未だ終わらず 何がたらぬと誰に問うべし


死にかけている友がいて なす術もなく見舞いより帰る


哀しみは後の想いに残るべし それをわれらの財産として


またひとり友は逝きたり残されしわれらの上に小雨など降る


祝うべきか悲しむべきか夜は明けて友の葬儀とわれの還暦


火葬場の白き遺骨を目の前にわれらは何を語らうべきや

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