冒険者ギルドの総務係、失恋で五年霊山籠りしたら最強仙人に 〜野生の神獣少女に心癒され復帰。俺を振ったエルフ受付嬢は冒険者になって俺を探してるって?〜
第6話 森の民が相手なら、ルドルフはわたしのもの確定!
第6話 森の民が相手なら、ルドルフはわたしのもの確定!
すごい速度で落ちてくる……!
まだ雲に隠れて見えないけど、いや――来た!
「な、なんですか……あれはっ? 空に人!? ……っ、ルウさん、私のそばへ!」
さっきまで俺に縋りついてたフレンさんは、すぐに目つきを鋭くして俺を引き寄せる。
「ウワッ。だ、大丈夫ですよフレンさん。敵じゃないですからっ」
「敵じゃ、ない……? なにか知っているんですかっ? ルウさん」
「ええ、よく知ってます! あれは――いや、彼女は……」
「――彼女? アレ、女なんですか……――?」
ええっ、また急に不穏な空気。何が気に入らなかった!?
あ、なんて言っているうちにもう――。
直後。
――ドンッ、と。
轟音とともに、大量の土が舞い上がった。そのまま俺たちへ容赦なく降り注いでくる。
「うわ! ちょっと、もう……登場の仕方はもう少し考えてくださいよッ」
そうして俺は、土の中に見える人影に向かって言った。
「――師匠……!」
「――ごめん。けど、やっぱり再会は派手なほうがいいかなって……」
返事をしながら、降り注ぐ土の雨から姿を表すのは。
土を弾く真っ白なおかっぱ頭に、人間離れした美しい容姿。
そしてなにより、その小柄な全身から迸る強力な気が懐かしい。まだ別れて数日なのに、ずいぶんと久しぶりな気がした。
「師匠! いったい、どうしてここに? 聖域を離れられないって言ってましたよね?」
「うん、まあ、なんとかした。で、ルドルフは修行も途中だし、またいっしょにいてあげようと思って!」
「聖域……ほんとに大丈夫です? またなんか適当なことやってません?」
師匠けっこうズボラだから。聖域の守護はすごい重要って前言ってたし不安だ……。
「ちゃんとわたしの分体おいてきたし。だいじょぶだいじょぶ」
「分体……なんかまたえらく高度そうな……」
この人ほんとにすごい仙人だからなあ。大丈夫って言うならそうなのかな……。
でも、なんかいやにこっちをチラチラ見て、物言いたげにしてる。再会して早々小言みたいなこと言っちゃったから?
うん……まあいろいろ言っちゃったけど。でも、来てくれたことが嫌だったわけじゃないんだ。
というかむしろ――
「――また会えて嬉しいです、師匠」
「……! わたっ、わたしも! もう、まったくもうルドルフは! 最初っから素直になれ!」
「あはは。すみません、ちょっと照れちゃってたかもです」
師匠、えらく喜んでる。俺だって嬉しい。やっぱり五年も一緒にいると、隣にいるのが普通になってたって言うか。
師匠はふんすふんすと鼻息漏らしながらこっちにくる。またいつもみたいに、飛びついてこようとしてるな……!
……あ、でもここにはフレンさんが――と思ったその瞬間だった。
「――ちか、づくな。寄るなっ! お前は……なんだッ?」
フレンさんは全身から魔力を立ち上らせ、近づいてくる師匠に牙を剥く。
さっきの飛竜に向けたのとも違う、明確な脅威に対面したような反応だ。俺を守ろうとしてか、一歩前に出て後ろに庇ってくれる。
でも。心配いらないよ、フレンさん。この人は敵じゃない!
「フレンさんっ。大丈夫です、魔力を収めてください! この人は敵じゃなくて、俺の師匠なんです! 五年間いっしょに――」
「魔力をほとんど感じない……! 魂の形も見えないッ。ただ薄く、よく分からない力に覆われている……ッ?」
聞こえてない……?
「これは……この臭いは。――あの時の、ルウさんのッ! お前か!」
「ちょっと、フレンさん! 落ち着いて!」
「あ、え、ルウさん……? ……でも、あいつが! ルウさんの魂に絡みついていたのと同じッ」
魂? たしかにさっきギルドでそんなこと言ってた気が。
「魂っていうのはよく分からないですけど、彼女は俺と五年間一緒にいた人なんです! 敵じゃないですからっ」
「五年、間? ルウさんを、失っていた間の……?」
「失って? ……いや、まあ、そうです! だから敵じゃないっていうか、むしろ恩人っていうかっ」
またフレンさんの情緒が。前はこんな感じじゃなかったのに、一体どうしたっていうんだ。
でも、ここまで説明すればひとまずは、と。
そう俺が一息つこうとしたその時。
「――今の会話。おまえ……ルドルフ振ったやつだな」
師匠? ……薄く、笑ってる?
「その耳、膨大な魔力。森の民か。でも、ずいぶん濁った魔力してる。……その執着っぷりを見るに、ルドルフのことを」
「……何が言いたいんですか」
「べつにぃ。ただ……森の民はたいへんだな。種族の違い、森の掟、魂の制約……自分の気持ちを伝えるのも好きにできない」
「ッ! 知ったような口を……!」
ええ、なんかいきなり一触即発?
ていうか師匠、なんかいつもよりずいぶん小難しいことを……。頭良くなりました?
「む。ルドルフ、いま失礼なこと考えただろっ」
「ええっ。また心読みましたか!? やめてって言ってるじゃないですか!」
「読んでないっ! 顔見たらわかる!」
「え〜、怪しいなあ……」
なんていつも通りのやり取りをしていると。
グイッと腕を引っ張られる。
「ん、フレンさん? どうしました?」
「……あまり、アレと親しくしない方が。得体が知れません」
「え? ……でも、師匠は悪い人じゃないんですよ。何度も危ないところを助けてもらいましたし」
「……ッ。それ、は。でも、おかしいですアレはっ。よく分からない力に、輪郭のない魂……! ルウさんの魂だって――」
「……すみません、フレンさん。たしかに師匠はちょっと普通じゃないですけど、あれでとてもいい人なんです。恩人と言ってもいい。だから、それだけはフレンさんの言葉を聞けないかも……」
「そん、な……。で、でもルウさんは……わっ、私の……ッ」
うん? なにって――うわっ。
フレンさん、涙目で上目遣い! めっちゃかわいい。五年前のことがなければ、俺のこと好きなんじゃって勘違いしそう。
「姑息な。あざといぞ〜」
「……っ」
あ、こらまた!
なんかこの二人、相性悪そう。会ってすぐ何度も喧嘩しそうになって。
今だって睨み合ってるし……。
で、その後。
丘の上には、睨み合う二人の少女(実年齢は……)。
「私があなたを倒して、ルウさんにかけられた呪縛を……!」
「そんなのかけてないのに。でも、戦うのはべつにいいぞ。――実はわたしも、ちょっと気に食わなかったんだ」
どうして、こうなった……。
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