第35話『聞き間違い』

2025年5月9日 記者の音声メモ

スマホボイスメモ書き起こし


[10:12] 電車内

後方の男性の会話。

「ずっと みてるよ」

と聞こえた。

振り返ると、サラリーマン二人。

「出張、来てるよ」

だったのか?

でも、確かに最初は——


[12:03] コンビニ

レジの店員(若い女性)。

「きみの ばんだよ」

は?

「お客様の番です」でしょう。

でも、確かに「きみの」と——

いや、気のせいか。


[13:25] 電話(母から)

母:「元気にしてる?」

私:「うん、大丈夫」

母:「いって いいよ」

「いって いいよ」?

「無理しないで」じゃなかった?

聞き返すと、

「無理しないでって言ったのよ」


[14:45] カフェ

隣のテーブルの女性二人。

「まってるから」

「しんじて」

「だいじょうぶ」

神ちゃん語の会話?

よく聞くと、

「待ってるから、彼のこと」

「信じてあげて」

「大丈夫よ、きっと」

普通の恋愛相談だった。

でも、断片的に聞こえると——


[16:20] 公園

子供たちが遊んでいる。

「みんな あつまって」

「こっちに きて」

「いっしょに あそぼう」

普通の子供の会話。

なのに、神ちゃん語に聞こえる。

いや、子供はもともと、

こういう話し方なのか?


[17:55] スーパー

店内放送。

「本日は ご来店 ありがとうございます」

一瞬、

「きょうも きてくれて ありがとう」

に聞こえた。

頭を振る。

もう一度聞くと、普通の放送。


[19:30] 帰宅途中

通りすがりの人々の会話。

断片的に聞こえる。

「だから」

「みて」

「ちゃんと」

「ね」

つなげると、

「だから みて ちゃんと ね」

神ちゃん語?

いや、別々の人の、別々の会話。

でも、つながって聞こえる。


誤聴の再検証メモ

仮説1:疲労による幻聴

最近の調査疲れ。

神ちゃん資料の読みすぎ。

脳が勝手にパターン認識。


仮説2:選択的聴取

神ちゃん語に似た音を、

無意識に拾い上げている。

カクテルパーティー効果の変形。


仮説3:実際に増えている

田島の例のように、

本当に神ちゃん語が、

社会に浸透し始めている?


夜の録音確認

今日の音声メモを聞き返す。

[10:12]「ずっと みてるよ」

→雑音を除去すると「出張、来てるよ」


[12:03]「きみの ばんだよ」

→これは明確に「きみの」と聞こえる


[13:25]「いって いいよ」

→母の声が一瞬、子供のように


[14:45] 恋愛相談

→単語の間隔が、神ちゃん語と同じリズム


記者の不安

たぶん、聞き間違いだ。

偶然だ。

文脈がそう言っている。

でも、どうしてあの言葉だけ、

こんなに耳に残るのだろう。

もしかすると、

「聞こうとしていた」のは、

私のほうかもしれない。

いや、違う。

最初から、

そのように聞く耳に、

なっていたのかもしれない。

子供の頃から。

神ちゃんを読んだ、あの頃から。


深夜の発見

古い録音を確認。

3月の取材開始時の街の音。

今聞くと、

あちこちに神ちゃん語が。

当時は気づかなかった。

でも、今は聞こえる。

これは、私の耳が変わったのか。

それとも——

最初から、あったのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る