第31話『記者の感覚異常:増殖』

記者の体験記録

2025年4月26日 深夜

自宅にて


23:45 最初の違和感

神ちゃんの単行本、第1話を開く。

何度も読んだページ。

資料として暗記するほど。

神ちゃんの最初のセリフ。

「だいじょうぶ」

あれ?

「だいじょうぶ みんな」

だったっけ?

いや、記憶違いか。


01:00 リアルタイム変化

第5話、じっと見つめていると——

「まってる」

(瞬きをする)

「まってる きみを」

(もう一度瞬き)

「まってる きみを ここで」

目の前で、文字が増えた。

いや、最初からあったような印刷面。


01:50 余白への侵食

第7話。

以前は余白だった部分に、薄い文字。

「もうすぐ」

ページをめくって戻すと、

「もうすぐ あえる」

また、めくって戻す。

「もうすぐ あえる やくそくの」

余白が、少しずつ埋まっていく。


02:14 過去の露出

第10話、神ちゃんが振り返るシーン。

背景に、今まで気づかなかった文字。

「1989ねん がっこうで」

「ともだちと よんだ」

「いっしょに」

これは、私の記憶?

でも、印刷されている。

インクの劣化も年代相応。


03:00 ノートへの転写

気づくと、手元のノートにも書いている。

単行本の文章を写しているつもりが、

ノート:

「たすけて くれて ありがとう」

単行本を確認:

そんなセリフはない。

でも、ノートには私の字で書かれている。

しかも、書いた記憶がある。

確かに、単行本から写した。


04:30 全ページの変貌

もう一度、第1話から確認。

すべてのセリフが増殖している。

第1話:「だいじょうぶ みんな まもって あげる ずっと みてる から しんぱい しないで」

第2話:「きみは ひとりじゃ ない わたしが いる いつでも どこでも そばに」

文字で埋まっていく。

余白が消えていく。


朝の確認(07:00)

目覚めて、単行本を確認。

すべて、元通り。

増殖した文字は消えている。

写真と同じ状態。

でも、ノートを見ると。

昨夜書いた文字が残っている。

「たすけて くれて ありがとう」

「もうすぐ あえる」

「ずっと まってた」

これは、誰の言葉?

私が書いた?

それとも——

最後のページに、今朝増えた文字。

「きょうも よんで」

確かに、また読んでしまうだろう。

今夜も。

文字が増えるのを知りながら。

もう、止められない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る