第10話『FAX:作者への通知』
FAX送信記録
送信日時:1990年1月17日 14:32
発信元:コドモジャック出版 編集部
送信先:天川ひかり様 自宅
送信結果:正常終了
【1枚目】
天川ひかり 先生
いつもお世話になっております。
コドモジャック出版編集部です。
このたびの件につきましては、慎重に社内で協議を重ねました結果、
下記の通りご連絡申し上げます。
『たたかえ!みんなの神ちゃん』の今後につきまして、
誠に恐れ入りますが、1990年3月号を最終回として
一旦完結という形を取らせていただければと存じます。
もちろん、先生の素晴らしい作品に対して
このような形でお願いすることは心苦しく——
(一部、文字が滲んでいて読めない)
【2枚目】
理由といたしましては、
読者層の変化により、
教育的な内容への移行を検討しております。
先生にも新たな作品への挑戦の機会を、
ご検討いただければと存じます。
編集部の方針として(文字が重複)
先生先生先生のご理解をご理解をご理解を。
(正常に戻る)
申し訳ございません。
改めまして、先生のご理解をいただければ幸いです。
【3枚目】
天川先生
本当のことを書きます。
もう限界です。
子供たちが集団で、
学校を休んで山に向かっています。
親からの抗議が警察にまで。
編集長の様子も普通じゃありません。
子供みたいな字で原稿を書き始めて、
『ぼくにもきこえる』と。
お願いです。
どうか自然な形で終わらせてください。
これ以上続けたら何が起きるか、
(ここで別の手書き文字が重なる)
だいじょうぶ
もうすぐおわるから
しんぱいしないで
【4枚目】
大変失礼いたしました。
社内での連絡ミスがあったようです。
正式には、以下の通りです:
最終回は1990年3月号を予定しております。
原稿締切は2月9日でお願いいたします。
なお、最終回の内容につきましては、
先生に完全にお任せいたします。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
コドモジャック出版
編集部一同
追伸:
先生からのお返事、お待ちしております。
【送信記録メモ】
14:32 送信開始
14:33 1-2枚目送信完了
14:34 (3分間の空白)
14:37 3枚目が勝手に送信される
14:38 あわてて4枚目を追加送信
14:39 送信終了
備考:
3枚目は送信した覚えがない。
誰が書いたのか不明。
でも確かに送られた。
FAX機の送信履歴を確認したら、
3枚目だけ発信元が「不明」になっていた。
天川先生からの返信FAX(1月18日 深夜2:14受信)
たった一行。
「わかりました ゴッドちゃんも そういってます」
記者による補足
この返信を最後に、天川ひかり氏との連絡は途絶える。
2月9日、締切日。
原稿は編集部のポストに投函されていた。
ページ数は合っているが、最後の1ページが白紙だった。
ある編集部員の証言:
「白紙なのに、何かが描かれている気がした。見る角度によって、見る人によって、違うものが見える、そんな感じだった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます