第6話『回覧板』

若稲台3丁目 町内会回覧板

1989年10月12日

回覧順序:1班→2班→3班→4班


お知らせ

秋祭りの準備について

10月28日(土)の秋祭り、準備は朝8時からです。

皆様のご協力をお願いします。

ゴミ出しルールの徹底

カラスの被害が増えています。

ネットをきちんとかけましょうね。


【重要】子どもたちの最近の遊びについて

保護者の皆様へ

最近、子どもたちの間で**「ある漫画のキャラクター」**を

真似た遊びが流行っているようです。

特定の作品名は控えますが、

この遊びが少し過度になっているケースが見受けられます。


例えば:

夜中に窓に向かって話しかける

「見守られている」と言い続ける

お友達を「信じる子」「信じない子」で分ける


もちろん、子どもの想像力は大切ですが、

日常生活に影響が出ない程度に、

おうちでも気をつけて見てあげられたらいいですね。

できましたら、各ご家庭で、

「その言葉」をあまり使わないように

お声がけいただければと思います。

みんなで協力して、

子どもたちの健全な成長を見守りましょう!

若稲台小学校PTA会長 田村


保護者による余白への書き込み

(1班・山田さん宅)

「うちの子も毎晩祈ってる。止めさせたいけど、止めると泣き叫ぶ」


(1班・鈴木さん宅)

「これ、宗教? 学校に相談した方がいい?」


(2班・佐藤さん宅)

「昨日、娘が『神ちゃんが来るから部屋を片付ける』って。誰も来なかったけど、娘は『来てくれた』って満足そうで。怖い」


(2班・高橋さん宅)

「息子のノート見たら、びっしり『みてる みてる みてる』。先生に見せたら青ざめてた」


(3班・渡辺さん宅)

「うちは読ませてません!!!」(赤ペンで強調)


(3班・伊藤さん宅)

「子供が『信じない子の家には行かない』と言い出した。

仲良しだった○○ちゃんとも遊ばなくなった。

○○ちゃんのお母さんと気まずい」


(4班・小林さん宅)

「回覧板回すの怖くなってきた。みんな何か書いてる」


(4班・中村さん宅)

筆圧の強い文字で——

「もう手遅れかもしれない

うちの子、完全に信じきってる

昨日、『神ちゃんのために』って言って

大事にしてた人形を窓から投げ捨てた

『これで神ちゃんが喜ぶ』って」


回覧板の最後(4班最終)

加藤さん宅の記入:

「回覧板、これで終わりにしませんか?

読むたびに不安になります。

 

それと、うちの子が言ってたんですが、

『神ちゃんは回覧板のこと知ってる』って。

 

どういう意味でしょう?

子供の言うことだから気にしない方がいいですよね?

でも」

(文章はここで途切れている)


町内会による追加配布メモ(10月20日)

回覧板での混乱を受け、以下を決定:


当面、この話題については回覧板で扱わない

個別の相談は町内会館で受け付ける

必要に応じて専門家を招く


なお、10月18日に予定されていた

「子供会の読書会」は中止となりました。

(理由は記載なし)


記者による注記

この回覧板のコピーは、当時の住民(現在は転居)から入手。

「あの頃の若稲台は異常だった」と語る。

「子供たちが集団で同じ方向を見つめて立ってたり、

夜中に窓という窓に子供の顔が並んでたり」

現在、若稲台3丁目には、

当時の住民はほとんど残っていない。

ある不動産業者によると、

1990年春に集団転居があったという。

理由は、不明。

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