傷を負う天才

檸衣瑠

望まないもの、望まれるもの

―彼は天才だった。天才は怪我をした―


「……二人は仲良く過ごしたのでした。おしまい」

くだらないハッピーエンド。

こんなに簡単な人生だったら誰も自殺なんかしないっつーの。


んなことを思ったところで、ガキたちのキラキラした視線は変わらない。

羨ましい。こんな呑気に生きていけたらどれほどよかったか。


別にセパが、セパタクローが嫌いなわけじゃない。

他にはない面白さは当然あったし、マイナースポーツ特有の人集めの必死さもなんだかんだ言って楽しかった。

それでも、全治1年の怪我をしてからも続けようなんて、続けたいなんて思わなかった。

セパが悪いわけじゃない。誰が悪いわけでもない。ただ別にそこまでの熱量も、覚悟もなかっただけ。


そんなつもりの天才を周りが許すわけはなかった。


セパだからだったのか、たまたまセパだったのかは分からない。

なんとなく分かる。何故かできる。

出会ったときからそうだった。

俺にとっての普通は、この世界では特別で、それを世界は「天才」と呼ぶ。

マイナースポーツの特性も相まったのだろう。

「天才」ともてはやされ、過剰に大事にされ、消えることを許されない。


人生レールは選べない。

今日もリハビリが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

傷を負う天才 檸衣瑠 @Leil-net

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画