淀で魔法は二度燃える

うみのまぐろ

淀で魔法は二度燃える

『外からスイープトウショウ!』


その魔法みたいな閃光は、画面越しにでさえ、私の胸を貫いていった。私はその瞬間を、現地では見ていない。ただ、何度も再生した。そして今でも目を閉じればあの閃光は瞼の裏に浮かび、スタンドの声が聞こえてくる。


歴史が変わる瞬間、京都競馬場での、末脚きらめく二〇〇四年の秋華賞、二〇〇五年のエリザベス女王杯である。


****


ある秋の日、私は淀に、京都競馬場へ降り立った。レース前のスタンドは静かで、人もまばらである。芝は風に揺れていた。

ここで、あの魔法が起きたのだと思うと、胸がざわついた。かつて魔法を目の当たりにした、第三コーナーの淀の坂のターフを見る。

淀は、時代が変わる場所。スイープが駆けた芝にも、そんな記憶が染み込んでいる。


鳥羽・伏見の戦い——兵数で劣る新政府軍が、旧幕府軍に勝利したあのとき、明治という新しい時代が始まった。

そして、同じ芝の上で、スイープトウショウが秋華賞を制した。この予兆は、混合戦である京都大賞典や宝塚記念の、牝馬であるスイープの歴史的勝利へと続いていく。

あのときの魔法のように、ここの淀では、力の均衡が崩れ、常識が塗り替えられる。

かつて銃声が時代を裂いたように、彼女の蹄の音が競馬の価値観を揺るがしたのだろう。

そしてその革新を、エリザベス女王杯で揺るがぬものとした。



ふと、それなら、私はどうしてここに来たのだろう。

この世界は、どうしようもないことばかりだ。ままならないことばかりだ。

この京都では、歴史的変革が数多起こる。一方で、その瞬間に実際に立ちあうことはまれで、歴史に刻まれた出来事の何に感動を覚えるかは人それぞれで、ただ、ここには魔法のかけらが確かにあるとするのなら。


私は目を閉じて、ターフの方へと一歩歩む。紅葉をさらう風が頬を撫で、芝がさざめいた。

そして、胸の奥で、あの声が響いた。



『大外からスイープトウショウだ!』



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