第8話 大団円

 一つ気になったのが、岸田の様子だった。

 記憶が戻ったのか、元々は、

「こんなに明るい性格だったのか?」

 ということであったが、実際には、

「悪いところ」

 というのが多かった。

 教授とすれば、

「記憶が戻れば、このような悪い性格を、まるで佐々木博士にゆだねたかのような感じ」

 ということであり、この男の何が悪いのかというと、

「自分のまわりに守らなければいけない」

 という人がたくさんいるのに、その人たちを放っておいて、

「ポンと他の人に寄付をする」

 ということであった。

 しかも、この男が寄付をした金というのは、

「慈善事業をする」

 ということで、まわりから集めた金だった。

 今でいえば、

「クラウドファンディング」

 というものなのだろうが、当時はそんなものがなかった。

 そもそも、バブル経済が崩壊する前だったことから、集まった金だったのだろうが、要するに、それが集まったのは、

「父親の人徳によるものだった」

 といってもいい。

 父親が政治家」

 ということだったので、

「それを大っぴらに父親の下に寄付をする」

 ということにしてしまうと、

「政治規正法違反」

 ということになり、もし、有罪にならなくとも、政治家としての信用は地に落ちてしまう。

 父親自身は、

「清廉実直な人だ」

 ということなので、このようなことは、

「後援会」

 などが仕組んだことで、そこに、息子の岸田が絡んだのだった。

 最初は、善の気持ちからだったのかも知れないが、しょせん、

「器が小さい」

 ということで、金を見ると、気持ちが変わってしまい、そもそも、悪知恵が働くということで、

「どうせ、表には出せない金」

 ということで、やつは、

「悪に手を染めた」

 それでも、何とか父親が気づいて、事なきを得たのだが、

「これではまずい」

 ということで、岸田を、鈴村教授に預けたのだ。

 教授の方も、

「こいつは、相当な重症だ」

 ということで、とにかく、

「記憶喪失にする」

 という秘伝の薬を使い、彼を一時的な記憶喪失にした。

 もちろん、

「解毒」

 というのもできるようになっていて、それは、佐々木博士も同じだった。

 そして、似たようなところがある、

「沢村」

 という二人を抱き込んで、今回の研究に充てるのだった。

 そこで、佐々木博士の下にやってきた二人は、記憶を取り戻させたことで、佐々木博士は、筋村教授の真意を知った。

「そうか、それじゃあ、しょうがないか」

 ということをつぶやいた、

 沢村と岸田の二人は、まったく二人の教授い操られているという意識はなかった。

「二人とも、よく来てくれた。私は、鈴村教授を師と仰いでいるものなので、安心してここにいればいい」

 と二人を安心させた。

 二人は、そのまま、研究室での研究の助手をすることになった。

「鈴村病院」

 でも同じように助手をしていたのだが、その時は病院で、こちらでは、研究室なので勝手が違うということであろうが、

「二人はおかまいなし」

 ということだった。

 というのが、二人の開発した薬のおかげということで、鈴村と佐々木の二人の教授に操られながら、

「社会貢献」

 というものをしているのであった。

 佐々木博士は、鈴村教授の考えとして、

「今の時代ではまだ、何もできないので、いずれ世紀末くらいになると、できるはずだ」

 といyことであった。

 というのは、

「佐々木博士が考えた二つの研究を、鈴村教授が考えたのだが、その考えを成功に導くには、まだ開発されていない薬が必要だ」

 というのだ。

 その研究は、世紀末くらいに完成予定ということで、これは、海外の研究施設が行っていることであった。

 ここは、国家ぐるみの開発なので、よほどのことがない限り、遅れるということはないという。

 今までの実績を考えてもそうだから、とりあえず、

「それを待つことにすればいい」

 ただ、一つの問題ということで、

「今、不治の病で苦しんでいる人をどうするか?」

 ということが問題であったが、それを解決するため、教授の推進は、

「冷凍保存」

 というものであった、

「今のままでは、余命が決まっている」

 ということで、冷凍保存するしかないということであったが、

「その間の記憶をどうするか?」

 ということで考えられたのが、

「岸田に使った記憶喪失の薬」

 というものであった。

 この薬は実は、今までに使ったものとは違う。今までの薬というのは、

「沢村」

 に使われたもので、

「その比較」

 という考え方から、鈴村教授は、わざと、

「沢村」

 と、

「岸田」

 の二人を送り込んだのだ。

 そして、

「実験台になった岸田」

 であるが、これは、父親の承諾を受けてのことだった。

「それだけの罪を犯したのだから、もし、実験台となって取り返しがつかなくなっても、それは仕方がない」

 ということであった。

「いや、もしそうなれば、未来においての難病を克服するという中に、岸田君を治すという使命を最優先にすればいい」

 ということからの、出発だった。

 そこから始まったことであったが、世紀末では、確かに、

「待ちに待った薬」

 というのが開発され、当時の佐々木博士と、鈴村教授の念願は、想定していたところまでは解決した。

 そして、その時を最後に本当に佐々木博士と鈴村教授は、引退し、その二人の意思を、

「沢村教授と、岸田教授が受け継いだ」

 ということになったのだ。

「岸田が教授となり、社会貢献をした」

 ということを、さぞや政治家で清廉実直な父親というのは、喜んでいるということであろう。


                 (  完  )

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記憶喪失の正体 森本 晃次 @kakku

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