第4話:予想外の提案

『ね? ね? こういう女子が好みなんだーとか、あの芸能人がいいなーとか。そういうのもゼロだったりする?』

「う、うん」

『まさかお前、男が好きなのか?』

「そ、それもないよ」

『異性を見て、魅力的に感じたりはしないのかしら?』

「え、えっと。それはある、けど……」

『例えば?』


 僕に質問をしていた三人の言葉が綺麗に被った。唯一長月さんだけは沈黙を守ってるけど。

 や、やっぱり僕、変なんだろうな。

 でも、ちゃんと誤解は解かないと、お互いすっきりしないよね。

 僕の言葉なんて、信じてもらえるかわからないけど。


「そ、その……荒井さんは頼りがいがあって格好いいし、武氏たけうしさんは積極的可愛いし。麗杜うららとさんは気品があって綺麗だし、長月さんもお淑やかさがあって素敵だし。みんなに魅力があるからこそ、周囲に人気があるのくらい、その……僕だって、よくわかってるし……」


 不安をごまかしながら僕がそう伝えると、三人の目の色が変わった気がするくらい、彼女達のキャラがずずいっと僕のキャラに前のめりに寄ってきた。


『ほんと? ほんとーにあーしの事、可愛いって思ってる?』

「う、うん」

『俺が頼れるって……本気で言ってんのか?』

「そ、そうだよ。褒め言葉に聞こえなかったら、ごめん」

わたくしが綺麗なのは当然ですわ。貴方あなたの見る目に間違いはございませんわ』

「あ、ありがとう?」

『私のことも褒めてくださるんですね』

「う、うん。魅力的なのは間違いないし」

『そうですか。ありがとうございます』


 テンションの高い武氏たけうしさんを始め、彼女達の反応は遠くで目にしてたTOP4の面々そのもの。

 僕に発言で気分を害さなかったか不安だったけど、みんなのキャラがどこか嬉しそうな笑顔をしてるように見えて、僕はちょっとだけほっとする。

 でも、そんな気持ちも長くは続かなかった。


『で。そこまで言っておきながら、なんで誰も選べねーんだよ?』

『そうそう。強いて言うならーとかないわけー?』

「う、うん。だって、僕なんかがそんな事、言える立場にないし」

『立場、ですこと?』

「う、うん」


 少し驚いた麗杜うららとさんに、僕はディスプレイに向け自然に頷く。


「だ、だって。みんなは高嶺の花だし。僕みたいな人間が憧れるなんて、もっての外だし……」


 そう。僕みたいな陰キャが、誰かが好きとか誰が良いとか。そんなことを言える立場になんてないよ。彼女達相手じゃなくたって。


『……あー』


 僕の言葉に、長月さん以外の三人の呆れた声が重なる。

 

『おいおい。お前はどこまで自分に自信がねーんだよ』

『本当ですわ。もう少し自己肯定感をお持ちなさい』

「そ、そんな事言ったって。僕に褒められる所なんて、どこにもないし……」

『そんな事ないじゃん!』


 ネガティブな言葉を一蹴するように、武氏たけうしさんのキャラがまた僕をびしっと指差す。


『ありうっちに良いところがなかったら、あーし達も一年以上一緒にゲームなんてしなかったよ?』

「良いところ?」

『そ。ファジフォレしてた時、あーし達はレベル上げだー! 戦闘だー! 生産だー! って、提供されたシステムだけが楽しむ要素だーってばっか思ってた。でもー、ありうっちは違かったじゃん!』

貴方あなたは一人で危険な場所まで踏み入っては、綺麗な景色を見ようとしてましたわね。私達わたくしたちからすれば愚行。ですが、それはゲームのシステムに縛られない、独創的な遊び方でもありましたわ』

『お陰で俺達も、戦いに疲れた時にお前んとこに来て、のんびり景色を見たりしてチルい時間を過ごせたんだ。それは十分お前の褒められる部分だって』

『みんなのいう通りです。ですから、そこまで悲観する必要なんてないですよ。今この時も、私達はあなたと一緒にゲームを続けたいと思ってますし』

「え……本当に?」

 

 TOP4がこんな僕と、これからも一緒にゲームしたいって思ってくれるの?

 いまだ信じられずにいると、画面に映る四人のキャラが、同時に頷き笑ってくれた。


『もち!』

『あったりまえだろ!』

『異論ありませんわ』

『私達でよければ』


 ……みんな……。

 ファンタジー・フォレストのサ終の日にも覚えた、胸に広がるじんわりとした喜び。

 だけど、続いた武氏たけうしさんの言葉を聞いた瞬間、一気に霧散した。


『ただー。折角同じ学校じゃん? だからー、お互いリアルでも一緒に遊ばない?』

「……へ? リ、リアルでも?」


 僕と遊びたい? リアルでも!?

 あまりに非現実的なその言葉に、僕はただ唖然とする。


『うん! 折角ならあーしも、もーっとありうっちの事知りたいしー。なんなら数ヶ月後、またさっきと同じ質問して、今度こそあーしが選ばれたいし──』

『お、おい沙和! お前また有内ありうちを困らせる気かよ!?』


 ノリノリといった態度の武氏たけうしさんを、荒井さんが慌てて止めに入る。だけど……。


『あら。わたくしは賛成ですわ』


 そこに待ったを掛けたのは麗社うららとさんだった。


『去年のアンケートも先日のファンフォレでも、なんなら今日もわたくしは選ばれませんでしたのよ。これはまだ、わたくしの魅力に気づいていない証拠。ですから、きちっとその魅力を感じていただかないと』

『だーかーら! それで有内ありうちが嫌気を差して、俺達と遊ぶのすら嫌がったらどうするんだよ! な? 千麻ちあさ?』

『確かに、有内ありうち君に迷惑をかけるのは本末転倒。ですが、結局は本人次第。まずは落ち着いてお話をしてみては』


 一気にわちゃわちゃしだした三人に対し、長月さんだけは相変わらずの落ち着きよう。

 ただ、確かに彼女の意見はもっともだけど、正直僕はただただ混乱してて、そんな言葉すら落ち着いて受け入れられなかった。


 今までのみんなと遊ぶのが嫌なんて思ったことはないし、リアルのみんなも周囲にあれだけ人気なんだ。きっと僕が嫌になることなんてないと思う。

 だけど、みんなからみた僕は別だ。

 つまらない僕のことを知ってもみんなに得なんてない。それどころか、ゲーム以上に陰キャなんだって知って、遊ぶのが嫌になるに決まってる。


 だいたい、みんなはあのTOP4なんだよ!?

 学校であれだけ人気のみんなと僕がリアルで遊ぶなんて、ただ不釣り合いってだけじゃない。

 みんなに好意を持ってる男子が沢山いるのに、そんな人達の時間を奪うことにもなるし、僕なんかが一緒にいることで、みんなが奇異の目に晒されるのも嫌だ。


 それに、きっと……。

 ふとした思い出に、僕の胸がぎゅっと苦しくなる。


 折角できた友達。

 だけど、みんなとリアルでも一緒にいたら、また以前みたいに辛い思いをするかもしれない。

 不安が現実になるかもしれなくっても、みんなと友達でいられるように受け入れた方が良いの?

 昔のようになるくらいなら、僕等は今まで通り、ネトゲ内の友達でいるべきじゃない?

 そもそも僕がTOP4のみんなと遊ぶのなんて、おこがましいんじゃ?


『ね? ありうっち。あーし達ともっと仲良くなってー、お互いを知ってこ?』

わたくしの魅力、存分に感じさせてあげますわよ』

有内ありうち。ぜってー無理はするな! 嫌なら断っていいんだからな』

『急いで答えを出す必要はありませんからね』


 期待の声。気遣いの言葉。

 四人のキャラが各々の言葉に見合う表情でこっちを見てくる。

 彼女達の色々な声がプレッシャーになって、頭で考えていた事をぐちゃぐちゃにする。


 僕はどうすれば……僕は……僕は……ああああああっ!


「ご、ごめん!」


 瞬間。僕はその場の空気に耐えられなくなって、咄嗟にイズコの通話を切り、ゲームもログオフしちゃったんだ。

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