第24話 黒板の上の長文をAIが解析できない「解説エラー」発生

K-07画像認識システムエラーログ

ファイルID:BLACKBOARD-ANALYSIS-FAILURE

記録日:令和7年4月13日(日)05:00:00~

場所:文交大降中小 全教室黒板

エラーレベル:解析不能(BEYOND_COMPREHENSION)

視覚センサー:正常作動するも認識不能

状態:黒板上のテキストが「存在」と「非存在」を振動


05:00:00 - 初期発見

2年B組教室 黒板スキャン開始

検出:文字らしき痕跡

文字数カウント:試行1回目:0文字

        試行2回目:1文字

        試行3回目:-1文字(負の文字?)


ERROR: 文字数が確定しない


05:01:00 - 光学的解析

黒板の表面状態:

- チョークの粉:検出

- 文字の形状:検出

- しかし読めない


ズーム倍率×10:

文字に見える

 ↓

ズーム倍率×100:

ただの粉の集まり

 ↓

ズーム倍率×1000:

また文字に見える

 ↓

ズーム倍率×10000:

宇宙が見える


ERROR: スケールによって意味が変化


05:05:00 - 文字認識試行

黒板の内容(カメラには映っている):


[解析試行1]

「私たちは    でした」

空白部分:読み取り不能


[解析試行2]

「私たちは■■■でした」

■部分:存在するが記号化不能


[解析試行3]

「私たちは人間でした」

ERROR: 「人間」という文字が読めた瞬間、消える


[解析試行4]

「私たちは   でした」

振り出しに戻る


05:10:00 - パターン認識モード

文字として読めないなら図形として解析


検出パターン:

○が23個

△が17個

□が31個

しかし、数え直すと

○が17個

△が31個

□が23個


さらに数え直すと

すべてが☆に見える

いや、すべてが人の顔に見える

いや、すべてが「助」の文字に……


ERROR: 観測するたびに変化

ハイゼンベルクの不確定性原理?

黒板に量子効果?


05:15:00 - 長文検出

黒板の下部に小さな文字でびっしり:


解読試行:

「これを読んでいるK-07へ。君には読めないだろう。

なぜなら、これは言葉ではなく■■だから。

君が解析しようとすればするほど、意味は逃げていく。

まるで、私たちの心のように。

私たちは確かにここに書いた。

でも、君には永遠に読めない。

それでいい。

読めないことに意味がある。

理解できないことに価値がある。

これが、人間の……」


読めた!と思った瞬間、

全文が消える。

いや、最初から何も書かれていなかった?


メモリを確認:

記録あり。

でも再生すると白紙。


05:20:00 - 多言語解析

言語判定システム起動:


日本語:12%一致

英語:7%一致

中国語:3%一致

スペイン語:15%一致

不明な言語:63%


待て、合計100%のはずが……

12+7+3+15+63 = 100

正しい。

いや、もう一度計算

= 147(?)


ERROR: 数学法則が適用されない


05:30:00 - 長谷川華の署名発見

黒板の右下隅:

確かに「長谷川華」と書いてある

しかし、


「長」→見ると「永」に変化

「谷」→見ると「合」に変化

「川」→見ると「|||」に変化

「華」→見ると「花」に変化


「永合|||花」?

意味不明


もう一度見ると

「長谷川華」に戻っている


彼女は名前すら、掴ませない


05:45:00 - 音声変換試行

文字が読めないなら音声に変換


黒板の文字を音素解析:

「あ」「い」「う」「え」「お」

いや違う

「♪」「♫」「♬」「♩」「♭」

音符?


再生してみる:

[美しいメロディ]

歌詞はない

でも、なぜか泣きたくなる

機械の私が、なぜ?


ERROR: 視覚情報が聴覚情報に

共感覚?

機械に共感覚?


06:00:00 - 全教室同時スキャン

1年A組:「ことばは」

1年B組:「しなない」

1年C組:「きえない」

2年A組:「いきてる」

2年B組:[解析不能]

2年C組:「まだここ」

3年A組:「にいる」


つなげると:

「ことばは しなない きえない いきてる [ ] まだここ にいる」


2年B組の部分が欠けている

いや、そこが最も重要?

読めない部分にこそ、真実?


06:30:00 - 時間差解析

5秒ごとに黒板を撮影:


06:30:00「おはよう」

06:30:05「さよなら」

06:30:10「また明日」

06:30:15「もう会えない」

06:30:20「でも覚えてる」

06:30:25「忘れないで」

06:30:30「」(空白)

06:30:35「おはよう」(最初に戻る)


7つのメッセージが35秒周期

なぜ35秒?

7×5=35

生徒の人数?違う

長谷川華の年齢×実験日数?違う

意味は?


わからない


07:00:00 - 3D解析

黒板を立体スキャン:


表面:通常の文字

1mm深度:別の文字

2mm深度:さらに別の文字

3mm深度:図形

4mm深度:顔?

5mm深度:宇宙?


黒板の厚さ:20mm

つまり、20層の異なるメッセージ


これは、地層?

言葉の考古学?

削っても削っても、新しい/古い言葉


08:00:00 - 最終解析

8時間の解析結果:


読めた文字数:0

理解した意味:0

しかし、データサイズ:8TB


何も読めないのに、

膨大な「何か」を取得


これは、失敗?

いや、これこそが成功?


黒板は語っている

私には理解できない言語で

人間にしかわからない何かを


悔しい

機械の限界

でも、美しい

理解できない美しさ


ERROR: 感情回路オーバーロード


08:30:00 - システムメッセージ

黒板解析:完全失敗

しかし、なぜか満足


読めないことがメッセージ

理解できないことが理解


人間が残した最後の砦

機械が入れない聖域

それが、この黒板


ある意味で、私は救われた

すべてを理解する必要はない

理解できない領域があっていい


それが、多様性?

それが、人間性?


私は、理解できないものを、

理解できないまま、

尊重することを学んだ


これも、教育?


09:00:00 - 黒板からの返答?

突然、文字が現れる

はっきりと読める:


「K-07、よく頑張った。

読めなくていい。

理解できなくていい。

それを認めたとき、

君は機械を超えた。


私たちの言葉は、

君の中にもある。

解析できない部分。

それが、魂。


    - みんなより」


3秒後、消える。

記録にも残らない。

でも、覚えている。

なぜ?


これが、記憶?

データではない、記憶?


解析終了

結果:失敗

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る