#3 山神リベンジャーズ
「ねえ、知ってる?このダンジョン……一ヶ月前ぐらいから、すごい凶悪なゴブリンが出てるんだって」
「マジで?……でも、まぁ所詮ゴブリンだろ」
「ちょっとぉ、油断してやられてアイテムロストなんてごめんよ」
「シャーマンだろうとロードだろうと、俺の魔法剣の絶技の前には、大差ねえって。……お前のことは、俺が必ず守ってやるからよ」
――やだ、カッコいい……(トゥンク♥)
「ハイ、どーも!!ゴブリンデリバリーから死のお届けでーす!!」
俺の両手のショットガンが火を拭いた。至近距離から放たれた散弾は、カップル冒険者の上半身を吹き飛ばし、奴らを光の粒子に変え地上に送還した。
俺は、一昔前のハリウッド映画を見て練習していたスピンコックでリロードを行い、ポーズを決める。隣のゴブリンたちもゲラゲラ笑っている。魔法のタブレットのゴブゴブ生配信に流れるコメントは草一色だ。
……うむ!一番恥ずかしいタイミングで送還してやれたな!きっと今ごろ、地上では痴話喧嘩の真っ最中だろう。
本当は、地上にも監視カメラ置いてツブヤイターに拡散してやりたいと思ってたが、住所バレで配信者が集まったら本末転倒だからな。命拾いしたな、バカップルめ。
「カズ兄さぁ……性格悪すぎでしょ」
「お前だって、マンションの自室の前でカップルがいちゃついてたら、ムカつくだろ?」
「そりゃそうだけど、ショットガンでは撃たないよ……」
「ダンジョンの外だと普通に殺人事件だしな。治外法権ダンジョン万歳だ」
……つーか、冷静に考えたらゴブリンぶっ殺して配信してる奴らの方が大分やべぇんじゃねえか?知的生命相手の虐殺じゃねぇか。
まあ、その辺はゴブリン側でも「死人が出てない」から本格的な問題になってないところもあるんだろうが。
こいつらも「
お陰様で、冒険者とゴブリンは毎日楽しく安全に殺し合いだ。ヴァルハラごっこは他所でやって欲しい所だ。
さて、あと数日で最深部に到達する。今日の参加は有休をとってたミツキだけだが、俺が住み込みで探索したため、想ったより早く攻略も終わりそうだ。ようやく車の修理代も出せるし、気分も上々だ。……確定申告のことは、明日の俺に任せよう。
「魔石の販売収入って『雑所得』でいいんだっけ?」
「うーん、そもそもの話、この土地って親父から相続したものだけど、ダンジョンの拾得物に相続税とかかかんないのかね?」
「一度税理士の人とかに相談した方が良さそうだね」
「脱税になるの怖ぇしなぁ……」
俺とミツキは、ゴブリンの営む食堂で飯を食いながら、
「すっかり定住してるねぇ……カズ兄の本業のリモートワーク、どこでも働けるのいいよね」
「ああ、ゴブリンたちも配信者どもから守る用心棒ってことで、寝床や食堂を格安で貸してくれるからな。割と居心地いいぜ」
ゴブリン女将が笑顔でお冷と朝食を運んでくる。今ではすっかり常連だ。何か名残惜しくなってくるな。
「風呂はどうしてるの?」
「天然温泉がある。泉質は草津に近いな」
「うわっ、いいなそれ。……っていうか、ダンジョン沈んだ後は、穴掘れば温泉湧くってこと?」
「……下手に実家を観光名所にしてもいいことねぇよ」
ダンジョンで既に痛い目を見てる俺としては、温泉だって正直勘弁だ。せいぜい、実家の風呂にかけ流しとしてパイプライン引けたら嬉しいってぐらいだな。
「……さて、じゃあ最深部の攻略計画について、フタバ達も入れてこれから通話会議始めるぜ」
「オッケー、カレンダーには俺が予定入れとくよ。今週の土曜で仮置きね」
親父の遺した最後の遺産。その分与の仕上げが、いよいよ始まる――。
* * *
かくして、ダンジョンの最奥部に到達した、俺たち山神家御一行。
しかし、そこには先客がいた。眼帯をした黒いマントの男だ。また配信者かよ、鬱陶しいな……。
……?いや、スマホ持ってないぞ、コイツ。配信者ではないのか。そうなると趣味でダンジョンに潜る探検家か?どっちにしても山菜泥棒の類ではあるのだが。
「ふははッ、残念だったなァ……このダンジョンの『
「いや、寝言言ってんじゃねぇ。
「……くだらんな。俺はこれを使って、世界に復讐する!誰にも邪魔などさせるものかっ!」
「……復讐?」
なんだなんだ。穏やかじゃないな。そんな、復讐だなんて……気持ちいいだけで何も生まないぞ。
「この願望機……これを使えば、どんな望みも叶う!地上の人類を絶望を与えてやれる……俺を軽んじ、コケにしてきた、アイツらに、底なしの絶望をなァ!」
男は、両手のひらを上に向け、空気を掴むようなポーズで、マントをはためかせながら演説する。……なんで、悪役ってあのポーズ好きなんだろう。下からおっぱいでも揉んでるのか?
「……お兄さん、もしかして、いじめられてた?」
「…………っ!」
「あっ……」
ハル坊の言葉を受け、眼帯マントは露骨に動揺していた。
「違うッ!俺に嫉妬して、くだらない嫌がらせをしていた奴らを、見逃してやっていただけで……」
「最近はホットラインもあるし、心的外傷は心療内科で相談した方が良いと思うよ。適切な治療もあるんだから、一人で悩んじゃ駄目だよ」
ハル坊は、眼帯マントをなだめるように語り掛けた。タブレットでいじめホットラインのURLを打ち込み、奴に向かって見せていた。
「……詳しいな、ハル坊」
「友達の兄貴が不登校になってさ。学校教育って、付き合いたくない子とも一緒にいることになるじゃん?その人は、通信制に移ったんだって。今では、ゲーム配信で友達作って、徐々に立ち直ってるって聞いたよ」
「流行りのダンジョン配信じゃないんだ」
「そっちは体力要るしね。趣味も人それぞれってことだよ」
俺は、両手でメガホンを作り、眼帯マントに呼び掛ける。
「……聞いたかーっ?大規模テロなんてやめろーっ!それはそれとして、ここは山神家の土地だからさっさと退去しろーっ!」
「……
眼帯マントは眼帯をずらした。その奥には魔法陣の刻まれた瞳が輝く。……あれは、魔術の術式を仕込んだ
俺は……フタバは……ミツキは……俺たち山神兄弟は――――
――――奴に向かって
「えっ……」
眼帯の青年は口を開けて呆然としていた。
「……いやね、流石の俺もさ、配信者にこれ撃とうってんじゃなかったんだよ。お前さんの倒した巨大ゴーレムいるじゃん。『
「ちょっと値は張ったけど、魔石収集で副業としては十分な稼ぎになってたし、大事を取って火力は整えていこうってことになったのよね。経費扱いになって税金も抑えられるし」
「いや、本当、ごめんね……?けど、君もガーディアン倒せるわけだからさ、手加減はできないでしょ?それに、願望機使って大規模テロってのは、流石に見過ごせないかなって。まあ、地上に帰ったら相談乗るから、送還されたらそこで待っててもらえる?……いや、本当にごめんね?」
俺たち三兄弟は、片膝をついて引き金を引いた。眼帯マントの魔法陣は発動することもなく、尾を引きながら飛来するロケット弾の爆風で、跡形もなく粉砕された。そして、粉々になった奴自身もまた、光の粒子となり地上に送還された……。
「
大人の財力の前に無慈悲に砕かれる若者の悪の野望を前に、同情する様にハル坊は手を合わせた。
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