マジカル可能性♾️ガール
花野 りり
第1話全力投球! ないなんて信じない! ∞のドキドキ学園生活のスタート!
「ありえない!」
ザワつく体育館に、その言葉に震える私。私だって信じたくない。嘘であってほしい。でも、何度測定しても結果は同じ。
「誰でも少しは測定に出るのに、南沢リナ、お前はどこまで見ても無限の0しかない……!? そんなにも絶望的に可能性がないのか!? 魔法使い適性もないし、ダメすぎないか!?」
年配の男子教師は絶句した後叫んだ。周りはドン引きで、ヒソヒソしてる。
「嘘、私、魔法使いに力をあげる魔力タンクにもなれないの!?」
絶望した。あんなにも夢を見て入学した魔法高校で、絶望どころか一瞬死亡した。ショックすぎてへたり込む私。
すると、やたら顔の整った男の子が私をジッと見てるのがわかる。
「僕、その子とペアでいいよ」
その男の子が、スッと手を上げて言った。
「でも、優里様」
「どうせ、僕は病弱で魔法ろくにつかえないし。自分で勉強して魔力を作る方法探すから、大丈夫だよ」
「ですが」
教師が敬語を使う、優里というこの美少年。背も高くて色が白くて、少し王子様っぽい。紅色の制服の着こなしも優等生っぽくて、どことなく大人っぽい。なんか育ちが良さそう。
「だから、この子が追い返したりしないでね? 後、優里様呼び禁止だって言ったよね?」
「高坂優里、でいいですか」
「敬語も禁止」
えっと、本当にこの人何者? 困惑する頭に、ニコニコの優里くん。白いとは思ってたけれど、ちょっと青白いレベルだな。本当に病弱っぽい。なんか薬剤の匂いもするし。
「よろしくね、南沢リナさん」
そっと王子様のように手を伸ばす優里くん。私はその手を取り、頭を下げた。なんか美形すぎて顔を直視するのがつらいな。発光してない? 芸能人?
「は、はい! よろしくお願いします」
なんかもう、腰が抜けて立ち上がれない。
こうして、私と優里くんはペアになった。
***
さっきの事件の一時間前。
「ここが、フラワー学園……魔法高校!」
私は白い煉瓦造りの豪奢な建物を見上げた。四階建てのそれは、もうすでにファンタジー世界の中のよう。バラ園もあって、あー、お姫様が住んでそうって感じ。
その中に、普通の日本人そのものの私。黒髪で、ロングヘアで、平均的な背丈で、もしこれが物語ならモブでしかない。
ずっとずっと憧れていた。小説や漫画で何度も読んだ魔法の世界。
それが最近の研究で、努力で使えるようになるってわかって、少し実家からは遠いけれど、高校ができて、それも! 私がちょうど進学できるタイミングに建てられるなんて! 超運命っぽいよね? 応募するしかないよね? もちろん、願書出した!
受験も合格した。
「魔力測定楽しみだね。魔法使いの素質があっても嬉しいな」
「そうだねー」
みんな紅色のセーラーと学ランに身を包み、笑顔で校門を通り過ぎていく。桜も咲いて、いかにも入学式って感じ。私もワクワクして、頬が緩む。
入学式はもう、あっという間で。校長先生の言葉なんか頭に入らないし、眠気もしないし、多分放心してたんだと思う。
広い校舎もすごかった。食堂もあった。学園寮もある。ちなみにここでは、お金はいらないのだ。成績によって食事は決まり、自由に使えるものも増える。完全実力主義だ。正直怖い。私、取り柄なんてないもん。そりゃ、入学テストには受かる程度の学力はあるけれど、ここではそれが当たり前だ。私は特別ではない。
「さて、今から能力測定テストを行う!」
この声で、私は先ほどの地獄を見たのである。
***
入学初日なので、ほぼ学校説明で授業は進んで行った。
持ち物があるかチェックしたり、校内案内してもらったり。優里くんと私は同じクラスらしく、ペアである私と優里くんは常に隣に立っていた。
「ねぇねぇ、あの人カッコよくない?」
「優里くんでしょー? 切れ長のめがクールだよね」
「体弱いらしいよー」
「それもなんかギャップ萌え!」
やっぱり優里くんはヴィジュアルがいいから、女の子に人気みたい。当然ではあるけれど、目立つなぁ。
「でも、魔法使いの素質ないんだって」
「え、ダサ。テストの時やばくない?」
「ヤバいんじゃない? まあ、ほっとこ。うちらに関係ないし」
キャハハ、と子供っぽく女の子達は笑った。なんかイラッときて、女の子たちに反論しようとすると、優里くんはニコニコしてスルーしようとしていた。なので、私も怒りをグッと飲み込む。
広い廊下に響いている笑い声は、なんだか虚しいものに感じられた。そうだよね、同じレベルになる必要はない。私達は入学資格を持って入学しているんだから、堂々としていればいい。罪悪感なんか必要ない。
「テストは僕がなんとかするし、気にしないで、リナ」
「は、はい」
「なんで敬語? 同じ年だと思うけど」
「緊張して、その、あんまり男の子と話したことなくて」
「そっか。でも、僕はただの男の子じゃなくて、君のものだよ。ペアなんだから。そして君は僕のもの。正確な意味では違うけれどね」
うわああああ。ドキドキして気絶するかと思った。
な、なんかすごい甘いセリフを吐かれた気がするんだけれど?
気のせいじゃないよね? 少女漫画みたいな……。一方優里くんはニコニコ顔のまま、ふわふわと外を見ている。
「気にしなくていいよ。危険になったら僕が守るから」
「でも、あったばかりなのに」
「ペアはペアだし」
「は、はあ……」
いいのかなぁ。
「……何より、あれはすごく興味深い数値だ」
「え?」
「なんでもないよ、リナ。さあ、食堂に行こう。お腹空いたよね?」
優里くんはなんでそんなに爽やかな感じでいられるの? 女の子になれてるの?
そりゃそうか。美形だもん。モテて育ってるよね。ってのはさすがに偏見か。
「うん。もうペコペコ」
食堂が見えてきた。木製のテーブル達が並ぶ、白く広い食堂。メニューは指定できないらしく、学籍番号のカードをテーブルに置くと、メニューがやってくるらしいとさっき聞いた。座って待つだけなんて、なんて便利なシステムだろう。
「ねぇねぇ、どこから来たの?」
「えっとねー」
他の子達はもう友達を作ろうと話しかけている。私はタイミング、完全に逃した感じ。というか、女の子は優里くんといるせいか睨んでくるし、男の子は苦手だしで、どうにもならないというか。
そもそも私達がこの魔法高校の初めての生徒だから、生徒人数も多くないし、もうずっとふたりでいなきゃいけないのかも? うわあああ。それはそれで恥ずかしいなあ。でも、寮はどうなってるんだろう? そこには女の子がいるのかな?
よし、そこで仲良しを作っちゃえ!
そんな事を妄想していると、誰かが近づいてくる。シェフだ。
「優里様は、こちらを」
シェフが優里くんにだけ豪華な配膳を出してくる。デミグラスソースのオムライスに、スープに、サラダに……いいなあ。羨ましい。
「僕だけヒイキしないでくれる? 僕も普通に、一番低いランクにするか、リナにも同じ料理を」
強い口調で優里くんは言った。
「よくわかんないけど、いいよ。私は一番低いランクでも」
「全然よくない。ほら、出して」
「わかりました!」
えっと、優里くんって何者なの? なんか結構特別待遇されてるけれど、病弱だから?
「何不思議そうな顔をしてるの? リナ」
「え、なんか優里くんさっきも様付けだったじゃん」
どこかのお金持ちのおぼっちゃまには見えるけれど。
「そんなの、経営者に病弱だから寄付金大量にあげてるからに決まってるじゃん」
苦笑いを浮かべる優里くんは少し困った様子だった。
「な、なるほど」
私は運ばれてきた料理を少し見て、シェフに頭を下げる。
やっぱりそういう理由かあ。納得納得。育ちいいのも予想通りだった。
でも、なんで病弱なんだろう? 学校には通えるってことは、大きな病気じゃないのかな。すごく心配だ。
「さあ。冷めちゃうよ、リナ」
「あ、うん」
私たちは食事を食べ始めた。
「お、おいしい!」
「リナ、嬉しそう」
優里くんの口を押さえて笑う様子は、王子様そのもの。上品!
「だって、すごくおいしいんだもん」
卵がとろとろで、本当に最高。何個でもいけそう。
「これから月曜日は毎回、同じシェフのご飯が食べられるよ」
「本当!? 曜日によって違うの!? 超豪華じゃん」
「うん、和風とか洋風とか中華とか、色々あるよ」
「最高!」
「卒業するまで、ずっとね」
ニコニコニコニコ。優里くんは少し得意げだ。なんで?
「やったあああ!」
でも、お母さんのご飯も恋しくなるんだろうな。でも、一時帰宅がないわけじゃないし、その時味わっとこう。でも、退学とか言われなくて本当に良かった!
「午後の魔法の授業楽しみだね」
「それは、どうだろう、僕たち何も使えないし」
わ、忘れてた。
「どうしようー」
思い出した私は、頭を抱えたのだった。
***
再度体育館に集まった私達。シンプルに地味な紺色のジャージを着せられた。
「ダサいよー、このジャージ」
「もっと可愛い服でよくない?」
「普通の服でいいじゃん。初期魔法でしょ? たいした事やんないんでしょ?」
「まず、光を作ってほしい」
女の子達の声を無視して白い頭をお団子にした小さな老女先生が言った。もちろん、先生もジャージ。一応色は赤だけれど。確か光を作るのって初期魔法だよね。ほんの少しの魔力があれば、習えばできるって噂だけは知っている。
「まず、ペアと体を密着させて欲しい」
「え!?」
私は思わず叫んだ。他の人も目を丸くする。
「それが、魔力の補充のやり方だよ。もっと強くするには「わあああああああああああ」」
「リナ、声が大きい」
優里くんが私の口を押さえる。私は冷静になって無言になって優里くんから離れる。
だって、何を言おうとしているか予想がついたんだもん! 無理! 恥ずかしいってば!
みんな戸惑っている。同性同士でも、今日であってそれはキツイ。
「慣れれば、石とかに魔力を込めて渡せるんだけれど、お前達にはこの方法が手っ取り早い」
老女先生は淡々という。
そうは言われても、恥ずかしいってば!
助けを求める目で、優里くんを見ると、困惑した顔でニコニコしていた。え、それはどういう感情? 嬉しいの? 困ってるの? なんなの?
「そしてこのホワイトボードに書かれた魔術を唱えなさい」
「何この暗号みたいな言葉……覚えにくくない? 優里くん」
「そりゃ、一般の人が理解できたら困るからね、リナ」
「確かにそれはそうだね」
納得の理由だけれど。
でも! 優里くんに抱きつくのは無理! 無理!
そう思っていたら。
「うおわ」
「されるがままになってて、リナ」
「優里くん」
私は優里くんに抱きしめられていた。優里くんが呪文を唱える。
周りの子達も、抱きついたり抱きしめられたり。
うわあああ。ドキドキする。私、汗臭くないのかな。すごく汗かいてると思うんだけれど。
「あ! 光が灯った!」
「俺も!」
一方私達はというと……。
「つかない……ごめん、僕の能力不足だ」
「いや多分私だと思う」
「もっと強く抱きしめ合えば、なんとか」
真顔の優里くん。美形だけれど、すごいセリフ言ってせん?
私、逃げ出したいんだけれど。腕力的に無理だけれど。病弱な割に優里くん、そこそこ力強いっぽい。意外。
「え」
「行くよ!」
へ? 行く? 嘘!? えええええ!?
「!?」
うわあああああああ。鼻血出さないかな、やばい。
なんかもう、みんな光を生み出し終わってこっち見てるし。
「何やってんだろうね、あのペア」
「ない魔力は送れなんじゃない?」
キャハハ、と女の子達は笑う。男の子は見て見ぬ振り。老女先生は頭を抱えて私達を見つめている。かける声が見当たらないのだろう。正直、私ですら老女先生の気持ちはわかる。
「じゃあ、あれ、全部無駄? いいなー」
「優里くんと抱き合えるのは羨ましいけど、正直あれじゃ卒業試験無理じゃない?」
「確かに、言えてる」
鼻で笑う声が聞こえた。つらい。でも、私はずっと憧れてきたんだ。
大した理由もないけれど、なってみたいと思って何かあったらって、勉強だけは人より頑張ってきた。そして、石川県から東京にひとりでやってきて、気合も入ってるのに、卒業だけはなんとかしないと……。
なんか泣きそうになってきた。もうホームシック?
「頑張ろう、リナ」
優里くんは私をみて微笑んでくれる。つらいのは、優里くんも同じなんだよね……晒しものになってるのは、私だけじゃないんだ。そう思うと余計苦しくなった。もし、私に力があれば、こんな事には。
「うん……」
何度も励ましてくれる優里くん。
それでも。
……結局その授業の間、私達はふたりの間に光を灯すことができなかった。
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