3話 人間卒業

診断の結果は『傘』。年間休日は不明。「傘」としての賃金はなく、ただ「使われること」が仕事である。能力は、そこそこの耐風性と撥水性、遮光•遮熱、UVカット加工、ワンタッチ開閉式だった。


「傘かぁ、父さんは絶対嫌がるだろうな」


 薄氷は診断結果の画面を拡大し、一つ一つの文を丁寧に読んだ。


「何かご不満でしょうか?」


 ゑびは満面の笑みで薄氷の顔をのぞいた。肩を掴まれる。


「ありません。今回の結果で納得しました。僕は元々人間には向いていなかったんですね」


「そうですね」


 薄氷は結果が傘であることに少し不満があった。それは父の忌み嫌う存在になってしまうこと。それが原因で嫌われてしまうこと。薄氷は、小中高大全て父のコネで入っていた。今回の旧人間園水槽ホテルも父のコネで入るつもりだった。しかし落とされた。最大の武器を使えなくなった今、薄氷は全裸徘徊者と同じである。適職診断の結果に従って就職することが、今の彼のできることである。たとえ、診断結果が人間としての死、父との隔絶のきっかけになったとしても、それに抗う術は無かった。


「傘になってくれますか?」


「はい」


「もう人間生活に未練は無いですか?」


 ゑびは立ち上がって、キッチンペーパーを薄氷の周りに巻きつけ始めた。


「蓮の髪型の女性に会いたいです」


 薄氷は、蚊の鳴くような声で呟いた。数日前にすれ違った女性が気がかりだった。薄氷は回転式拳銃を学校で紛失してしまったため、新しい拳銃が欲しかった。あの女性から貰えないだろうか?


「会えますよ。死んだ後にね」


 突然、大量の焼かれた鳥達が薄氷の元に飛んできて、キッチンペーパーごと彼を遠くの空に運んだ。


「人間卒業おめでとうございます!」


 ゑびはレタスを取り出し、溢れ出る涙を拭いた。


「薄氷釦、君に悪意は全くないよ」


 ゑびは涙でぐしょ濡れになったレタスを握りしめた。

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