第6話 孤独の教室と、あの時の記憶(みなと視点)
第6話「孤独の教室、光る記憶」―みなと―
昼休みの教室は、今日もざわざわと賑やかだ。
女子たちは机を寄せ合って雑誌を広げ、男子たちは廊下でボールを蹴り合っている。
そのどちらにも、わたしの居場所はない。
「……」
机に突っ伏して、窓の外を眺める。
それがいつの間にか習慣になっていた。
わたしは、ボーイッシュな格好(見た目)をしているからか、女子からは「男の子みたい」と笑われ、男子からは「俺たちと同じ仲間(皮肉)」みたいに扱われるけど――本当はそうじゃない。
どっちにも混ざれない半端者なのだ。
そんな自分を、いつしか受け入れてしまっていた。
(平気。わたしはひとりでも、平気だから……)
そう強がる心の裏で、何度も「でも、本当は……」と呟く声が消えない。
放課後。
帰り道でふと立ち止まり、空を見上げた。
夕焼けに染まる雲の向こうに、あの夏祭りの夜の花火を思い出す。
――わたしが、笑っていた。
金魚すくいでどっちが多く取れるか勝負をして、屋台で買ったリンゴ飴を分け合って、くだらないことで声を出して笑った、あの夏祭り。
あの4人の子たちと一緒に。
胸の奥がふっと温かくなる。
(夏祭りのときは、本当に楽しかったな……)
数日後。
近所の小さな本屋で新刊の本を立ち読みをしていると、背後から声がした。
「……あれ?この前の夏祭りのみなとちゃん?」
振り返ると、そこにいたのは夏祭りで出会った4人だった。
驚いて固まるわたしに、ひよりが手を振る。
「やっぱり! 夏祭りの!」
「偶然だねぇ、また会えるなんて!」
カレンがニコニコ笑う。
あかねもすずかも、自然にわたしの名前を呼んでくれた。
(……わたしの名前、覚えていてくれてたんだ)
心の奥がじんわりと熱くなった。
それから、放課後に連絡を取り合って、町を一緒に歩いたり、駄菓子屋でお菓子を食べたりするようになった。
あの4人と過ごすときだけ、わたしは「女の子」として自然に扱ってもらえる。
からかわれることもなく、変に距離を置かれることもない。
「わたし、ちゃんと『わたし』でいられるんだな」
そう気づいたとき、頬が勝手に緩んでいる自分に驚いた。
翌日。
教室では相変わらず一人きりだった。
でも――窓の外を眺めながら、小さく笑みがこぼれる。
(今日も……あの4人に会えるかな)
その想いだけで、少しだけ心が軽くなる気がした。
青い空の下、いつもの場所で 小阪ノリタカ @noritaka1103
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