第3話


王女の部屋の扉は、驚くほどあっけなく開いた。

鍵がかかっていない。警戒心がないのか、それとも俺が勇者だからと油断しているのか。

静かに足を踏み入れると、部屋の中は、昼間とは全く違う、甘く、誘惑的な空気に満ちていた。微かに香るのは、百合の花のような甘い香り。昼間、図書館で拾った白いレースの下着から漂っていた、あの香りだ。

部屋の中は薄暗く、窓から差し込む月明かりが、部屋の様子をぼんやりと照らしている。

ベッドの上には、一人の女性が横たわっていた。

王女アリアベルだ。

彼女は、昼間の華やかなドレスではなく、薄いシルクのネグリジェを身につけていた。月明かりに透ける生地が、彼女の体のラインをぼんやりと浮かび上がらせている。

俺の鼓動は、急速に高まっていく。

(どうしよう……。どうして俺は、こんな真夜中に、王女様の部屋に……!)

一瞬、部屋から逃げ出そうかと思った。だが、この異常な感情の正体を確かめるには、今しかない。

俺は、意を決して、ベッドに近づいた。

その時、アリアベルが寝返りを打ち、微かに身じろぎした。

「……んん」

彼女の口から、甘く、か細い吐息が漏れる。

俺は、息を潜め、彼女の様子を観察した。すると、彼女の胸元が、微かに上下しているのが見て取れた。夢でも見ているのだろうか。その表情は、昼間の毅然とした王女のそれとは全く違い、まるで、無垢な少女のように穏やかだった。

(こんな顔もするんだな……)

そう思った瞬間、俺の頭の中に、またあの燃えるような赤いTバックの残像が蘇った。

俺は、無意識のうちに、ポケットに手を入れていた。そこには、やはり、あの白いレースの下着が入っている。

その下着を握りしめた瞬間、再び、あの熱いエネルギーが体中に漲ってくるのを感じた。

しかし、今回は、剣を振るうような力ではない。もっと、穏やかで、しかし、体の奥底から満たされていくような、不思議な感覚だ。

その時、アリアベルが再び身じろぎし、目を開けた。

「……誰?」

彼女の潤んだ瞳が、暗闇の中の俺を捉えた。

しまった!見つかった!

俺は、一気に冷静さを失い、どう言い訳をすればいいのか分からなくなった。

「あ、あの、その……」

俺がしどろろもどろになっていると、アリアベルは、信じられないものを見たような表情で、俺の手元に視線を向けた。

彼女の視線が、俺が握りしめている、あの白いレースの下着に注がれていることに気づき、俺は慌てて手を隠そうとした。

だが、もう遅い。

アリアベルの顔は、みるみるうちに赤くなり、先ほどまでの穏やかな表情は、羞恥と怒りに歪んでいった。

「な、なんで……なんで、貴方が、それを……!」

彼女の口から出た言葉は、俺の想像をはるかに超えていた。

「ま、まさか……あ、あれは……!」

彼女は、震える手で、自分の身につけているネグリジェの胸元を抑えた。

その仕草を見た瞬間、俺は、ある一つの事実に気づいてしまった。

(もしかして……この下着、王女様のものだったのか……!?)

俺の頭の中で、全てのピースがカチリと音を立ててはまった。

この異世界に来てから、俺がTバックのことばかり考えていたのは、単なる俺のスケベ根性からではなかった。あのTバックは、王女の純潔を象徴する、特別なものだったのだ。そして、俺が手に入れたこのチート能力は、そのTバックにまつわる、彼女自身の秘密と深く結びついている。

俺がそんなことを考えている間にも、アリアベルの顔は真っ赤になり、ついに、悲鳴のような声が、部屋の中に響き渡った。

「ど、変態!どろぼう!……出ていきなさい!」

俺は、再び「変態」呼ばわりされてしまい、全身から力が抜けていくのを感じた。

「あの、待ってください!別に変な意味じゃ……」

俺は必死に弁解しようとするが、口から飛び出したのは、自分でも信じられない言葉だった。

「あの……今日の下着は……何色ですか?」

その瞬間、部屋の空気が凍りついた。

アリアベルは、言葉を失い、怒りと羞恥心で顔を真っ赤にして、俺を睨みつけている。

俺自身も、なぜそんな質問をしてしまったのか、全く理解できなかった。頭では「違う、違う!」と叫んでいるのに、口は勝手に動いてしまったのだ。

「……っ、この変態!もう、許しません!」

アリアベルは、怒りに震えながらベッドから立ち上がり、俺に向かって駆け寄ってくる。その勢いのまま、ネグリジェの裾がはだけ、月明かりの下に、彼女の白い太ももが露わになった。

「あ…!」

アリアベルが、はだけたネグリジェを慌てて押さえようとすると、一瞬だけ、その下に見えたのは、鮮やかなブルーのTバックだった。

その瞬間、俺の視界は、まるでスローモーションになったかのように、ブルーのTバックに釘付けになった。

同時に、俺の全身を、清々しく、穏やかな風が通り過ぎていった。

(……なんだ、この感覚は?)

先ほどまでの胸のざわつきや、下腹部の熱は、嘘のように消え去っていた。

ブルーのTバックから放たれる、まるで清らかな泉のような、癒しの力。

しかし、なぜ、Tバックの色で、力の種類が変わるのか、その理由を俺はまだ知らない。

俺の異世界生活は、とんでもない方向に進み始めたようだ。

この後、二人の関係はどうなっていくのか? そして、魔王討伐の旅は、どう展開していくのか?

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