怖がりなおばけ

五來 小真

怖がりなおばけ

 おばけの仕事は、人を怖がらせること。

「ここで一気に驚かせる! ——いや、待て。本当に大丈夫か? もしかすると相手は気付いてて……」

「……クモ!? いやあああ!」

 しかし二人のおばけはこの有り様でした。

 そんな二人は傷を舐めあってるうちに夫婦になり、やがて子を授かりました。

 

「虫、虫、虫——!? ——どこか逃げないと。別の部屋に……。いや、虫は家中にいるのかもしれない。家の外? 外なんてもっといる——!」

 鳶が鷹を――、そんな期待を抱いていたわけではなかったのですが、子供は二人の悪いところを引き継ぎました。


「あの子の将来は、大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、私達の子ですもの」

「——いや、だからこそだよ」

「……私達の責任ですもの。——なんとかアドバイスしてみましょう」


「もっと度胸を——」

「お母さんだって、怖がりじゃないか」

「考えすぎだよ」

「お父さんに言われたくない」

 子供の言うことは、もっともでした。


「——これは」

「いよいよ困った」

「老後はあの子を逆に養わないといけないかもしれませんね」

「——むしろ老後の資金すら危ういのだが……」


 時が過ぎ、子供がついに初仕事に行くことになりました。

 心配な夫婦は、こっそり後をつけることにしました。

 子供は今日は病院で仕事をするようでした。

 相変わらずおばけなのに、ビクビクしています。

 ――これはダメだ、見ていられない。

 そう思った時、子供と人間の女が鉢合わせになりました。

「ぎゃー!」

 こともあろうに、子供の方が先に悲鳴を上げました。

 夫婦は落胆しました。

 ——やっぱりダメだった。老後は三人で首を吊ろう。


「きゃあああああ!」

 次の瞬間、人間は悲鳴を上げ、一目散に逃げ出しました。

 人間は、悲鳴に驚き恐怖したのでした。


「なんだかよくわからないけど、人間って簡単に驚くんだね。——なんでお父さんとお母さんは驚かせられないの?」

「……」

「……」

 ホクホク顔で帰ってきた子どもは、夫婦にそう笑顔で語りました。


 <了>

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