4限目、社会[インコ先生]

社会の授業は、最初の五分間は完璧だった。


インコ先生は澄んだ声で教科書を読み上げ、板書も整然と並んでいく。


生徒たちは「今日は意外と普通かも」と思い始める。


だが、一人の生徒が手を挙げた。


「先生、この戦争の原因は何ですか?」


先生は首をかしげ、そして大きな声で答えた。


「せんそうのげんいんはなんですか!」


教室がざわめく。次の質問を投げると、またそのまま復唱。


以降、先生はただ生徒たちの言葉を繰り返すばかりだった。


「この条約の意味は?」


「じょうやくのいみは!」


教室はだんだんと不思議な合唱になっていき、最後は誰も質問しなくなった。


チャイムが鳴ったとき、生徒たちはノートを見て笑い合った。


板書は立派だが、条約の意味はどこにも書かれていなかった。

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