第4話 文明の第一歩
三日目の朝。
平らになったとはいえ、やはり石の床は硬い。俺はバキバキに凝り固まった体をほぐしながら、洞窟の外に出た。
「ふあ……おはよう、みんな」
「「……」」
もちろん、ゴーレムたちがそう返事をしてくれるわけではない。だが、俺が声をかけると、それぞれの持ち場についていた一号から四号までが、一斉にこちらを向いてぴこりと動く。それだけで、俺はなんだか満たされた気分になる。
「さて、と……」
朝食は、四号が昨日集めてきてくれた木の実の残り。美味しいことは美味しいが、正直、少し飽きてきた。
(やっぱり、温かいものが食べたいよな。スープとか、焼き物とか……)
前世では、コンビニ飯か外食ばかりだったが、それでも温かい食事のありがたみは知っている。
(そのためには、まず『器』が必要だ。鍋とか、皿とか。それを作るには……そうだ、『
粘土をこねて器の形にし、高温で焼き固める。陶器だ。
窯さえあれば、器だけでなく、レンガも作れるかもしれない。レンガがあれば、この洞窟をいずれは頑丈な家に改築することだって夢じゃない。
「よし! 今日のプロジェクトは『窯作り』に決定だ!」
俺は高らかに宣言し、ゴーレムたちに向き直った。
「みんな、聞いてくれ! 今日は文明の第一歩を踏み出す、記念すべき日になるぞ!」
俺の熱意が伝わったのか、ゴーレムたちが心なしかそわそわしているように見える。
「まず、材料の確保からだ! 一号!」
「ピッ!」
偵察担当の一号が、俺の前に転がってくる。
「昨日見つけた小川の近くに、質の良い粘土層がないか探してきてくれ。色は……そうだな、なるべく白っぽいものがいい」
(命令、資源探査。対象は『陶土』。付加条件、色指定……よし、行け!)
一号が、了解とばかりに猛スピードで走り去る。
「次に、四号!」
「ピョコ」
食料調達担当の四号が、器用に小枝を拾いながら近づいてくる。
「お前には、窯で使う燃料を集めてきてもらいたい。なるべく乾燥した薪を、できるだけたくさんだ。頼んだぞ」
四号はこっくりと頷くと、近くの枯れ木に向かって歩き出した。その小さな体で、健気に薪を集め始める。
「そして、二号、三号!」
「「ゴゴッ」」
土木担当の二人が、腕(?)を組んで待機している。
「お前たちには、窯の基礎を作ってもらう。場所はこの洞窟のすぐ隣、この辺りが平らでいいな。地面を固く踏み固めて、土台を築いてくれ」
俺が地面に簡単な設計図を描くと、二号と三号はすぐに作業に取り掛かった。ドッシン、ドッシン、と大地を揺るがすような音を立てて、地面がみるみるうちに固められていく。
「……完璧な
前世では、プロジェクトの進行管理にどれだけ頭を悩ませたことか。それに比べ、今の俺の現場は、指示を出せば100%の精度で実行してくれる最高のチームだ。
しばらくして、一号が泥だらけになって帰ってきた。
「おお、見つけたか! 案内してくれ!」
一号に連れられて小川の上流へ向かうと、川岸の一部が崩れ、きめ細やかな白い粘土層が剥き出しになっていた。
「これだ! まさに理想的な陶土じゃないか!」
俺は興奮しながら粘土を手に取った。これだけあれば、当分は材料に困らないだろう。
「二号、三号! 粘土の運搬だ! ここにある粘土を、さっきの基礎工事現場まで運んでくれ!」
二人の巨大なゴーレムは、その大きな手でごっそりと粘土をえぐり取ると、軽々と持ち上げて拠点へと運んでいく。
拠点に戻ると、そこには固く締められた基礎と、山のように積まれた薪、そして大量の粘土が揃っていた。
「よし、材料は揃った。いよいよ本体の製作に取り掛かるぞ!」
俺は前世で見たドキュメンタリー番組の知識を総動員し、頭の中で窯の設計図をコーディングしていく。
(形状は、熱効率の良いドーム型。下部に薪をくべる燃焼室、その上に焼き上げるものを置く棚を設置。煙を逃がすための煙突も必要だ……)
function buildKiln(material, design) {
// ドーム構造の生成
createDome(design.radius, design.height);
// 燃焼室の設置
createFirebox(design.fireboxSize);
// 煙突の設置
createChimney(design.chimneyHeight);
}
(――二号、三号! この設計通りに、粘土を積み上げていけ!)
俺の命令を受け、二体のゴーレムが粘土をこね、壁を作り、ドームを形作っていく。それは、まるで3Dプリンターが巨大な建造物を出力していくかのような、神々しささえ感じる光景だった。
日が傾き始める頃には、高さ2メートルほどの、見事なドーム型の窯がその姿を現していた。
「……できた」
まだ完全に乾燥してはいないが、俺の文明の、そして快適なスローライフの礎となる、最初の建造物だ。
「これさえあれば、何でも作れる。皿も、鍋も、レンガだって……。いずれは、風呂だって作れるかもしれない」
夕焼けに照らされた土色の窯を眺めながら、俺の夢はどこまでも広がっていく。
追放されて、まだ三日。
だが俺は、人生で今が一番、楽しくて仕方なかった。
【自動化】スキルで快適スローライフ! 〜追放された落ちこぼれゴーレムマスター、実は伝説級の魔導具技師でした〜 @123te
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