【未来編】転生ルーシアが歩む!平和な世界とその代償

序章 平和と運命の出会い

第0話 プロローグ──悪役王女が掴んだ未来

曽祖父ロール・エン・ルシアは人里離れた片田舎に住んでいる最長年者である


人里離れた苔むした石造りの館、その古びた図書館で曽祖父は司書として暮らしていた


昼間は散らかった古書を整理し、埃を払う

まれに村の子どもたちがやって来て絵本を手に取り


「司書のおじさん、読んで!」


そうせがむと、曽祖父は柔らかな声で読み聞かせをしていた


村人たちはそんな曽祖父のことを“隠者”と呼んでいる

物静かで、外に出ることもほとんどなく

ただ図書館に籠り、本に囲まれて暮らすからだ




そんなロールのひ孫にあたるルーシアは、この図書館の常連である


「図書館にある本をほとんど読み尽くした」


そう囁かれるほどの本好きは村でも有名である

そんなルーシアは、その日これまで一度も目にしたことのない一冊が、棚の隙間にひっそりと置かれているのに気がついた


厚い革表紙には、金の文字でこう刻まれていた


『愛する主へ』


ルーシアはまだ見ぬ本の内容に、胸を高鳴らせながらページをめくった




本を読み進めるうちに、その史実を描いた内容に、ルーシアは何度も胸を締め付けた

やがて最後の一文を閉じると、ふと著者名に目を落とした


著者:ロール・エン・ルシア


「……ロール・エン・ルシア?」


小さく読み上げた少女は、思わず目を丸くした

それは、この図書館を営む“おじいちゃん”──自分の曽祖父の名だったからだ




本を置いたルーシアは奥の机に目を向けた

日差しの差し込む窓辺に、古びた椅子に腰掛けた曽祖父が眠っている

その表情には長い年月の哀愁が漂い

けれど同時に、どこか満ち足りた安らぎがあった


そんな横姿が〝知らない誰か〟と重なる

その瞬間──眠っていた記憶が胸の底から溢れ出した




民が謳う中、頭上に聳える断罪の刃

その刃を待つ瞬間──まだ訪れない〝災厄の未来〟が頭を駆け巡る

そこに映ったのは非道を重ね、人を傷つける自分の姿だった

それが否応なしにも悟らされた

この断罪は無実の人を裁く刃ではなく、未来に犯す者への〝当然の報い〟であると


その受け入れを果たした後に訪れた死を境に、意識が引き戻される

私は確かにその瞬間に死んだ事を悟る

しかし同時に新たな次の生を与えられた事も理解した

最終的にこんなことを可能にするのは〝黒魔術〟しかない── そう結論づけた


そんな混乱の中でたどり着いた答えに、ルーシアは確信していた──これで二回目の〝転生〟をしたのだと




ルーシアは状況を飲み込むと、そっと眠りにつく曽祖父に近づき肩に手を置いた

同時に胸の奥から込み上げてくる懐かしさに、思わず口が開く

それが自分の言葉か、それとも蘇った記憶から溢れたものか、ルーシアには分からなかった


「……本当に相変わらずね、私の執事は」


そうにっこり笑って呟くと口はなおも言葉を紡ぐ


「あなたのおかげで、とても平和な世になったの

それでもやっぱり世界は嘆きに満ちている

だから私は何度でも悪を演じて正義をなすわ

例え生まれ変わってもね」


その囁かれた声を聴いたかのように、老人の口がゆるやかに動いた


「……それならば、どこまでもお供します、ルシア様」


ルーシアは一瞬、驚いて瞳を見開いた

その名はついさっき蘇った〝記憶〟の持ち主の名前だったから

だけど次の瞬間、肩を揺らし小さく笑う


「なんだ……寝言だったのね」


静かに眠る曽祖父を見ながらそう言い残し、ルーシアは図書館を後にした


その日、静寂の戻った館内で曽祖父ロール・エン・ルシアは静かに息を引き取り、長きにわたる生涯を終えた




それから数年後、街外れでいじめられている少女の姿を見つけたルーシアは反射的に駆け寄っていた


その小さな行為が引き寄せた運命であいが、やがてこの物語を大きく動かす転機となることを──この時のルーシアはまだ知らなかった

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