【番外編】義賊ドロエルの誕生秘話

序章 出生の秘密

第0話 プロローグ──忌み子の少女

この物語〝義賊ドロエルの誕生〟を語るためには、一人の少女のお話からしなくてはいけない


そう、このお話はちょうど国王マスオが王位についてまもない頃のお話である




当時勢力を拡大する帝国国家[戦刻せんこく]マジック・エンペラーに隣接する奇跡王国[超刻ちょうこく]ピースフリーは幾度とない戦争で疲弊の一途を辿っていた


その国境を守るのは〝鉄壁の砦〟ともよばれた[戦刻]との境を任されるドロール侯爵領である


なぜ〝鉄壁〟とまで称されるのか

それは〝二人の英雄〟がいたからだった


当主にして〈剣聖〉の能力を持つグラン・ドロール侯爵

その妻にして〈剣鬼〉の能力を持つフラン・ドロール侯爵夫人

この二人の力は歴代最強と謳われ、まさに英雄のような活躍で、ついには一時的な停戦にまで至らしめた




そんな侯爵夫婦の間に、ようやく一人の少女が生まれた

名はシエル・ドロール

生まれながらにして多くの祝福を受け、使用人や領民からも愛されて育った


だが貴族の義務として、生まれて間もなく受ける鑑定でそれは一変した

鑑定の結果──シエルの持っていた力は〈封印〉

神より与えられる奇跡を押さえ込み、無効化する能力だった


その存在は瞬く間に噂となり、やがて周囲はシエルを〝忌子いみご〟と呼ぶようになる


「奇跡を封じるなど、この国に仇なすものだ」


まだ幼いシエルに、そんな理不尽な烙印が押された

だが両親グランとフランは違った


「どんな力を持とうと、シエルは私たちの娘だ」


「シエルあなたは忌子いみごなんかじゃないわ、私たちの宝よ」


そう告げながら強く抱きしめ、愛情を惜しみなく注いだ

それがシエルにとって、何よりの救いだった




やがてシエルが二歳を迎えた頃、[戦刻]マジック・エンペラーが再び侵攻を開始する

両親は戦場へ赴く準備を整え、幼い娘を前に笑って見せた

シエルはそれを見て不安を抑えきれず、二人に手作りの御守りを差し出しす


「父様、母様

『二人が無事でありますように』って、おまじないを込めた御守りを作ったの

だから無事に帰ってきてね」


二人はその御守りを大切に抱きしめ、必ず帰ると約束した

──だがその約束が果たされることはなかった


戦場でシエルの〈封印〉が無意識に宿った御守りは、両親の力を一時的に封じてしまったのだ

母フランは〈剣鬼〉を振るえず倒れ、父グランも〈剣聖〉を封じられたまま戦場に散った


こうしてシエルは〝忌子いみご〟として国に一人残されることとなってしまった


国王マスオはそれを知ってすぐさま、執事長セバスをドロール侯爵領へと送った

送られた執事長セバスの的確な指示の下、戦争状態が膠着する

そして数日後…敵指揮官が〝暗殺〟されたとの一報が入り[戦刻せんこく]マジック・エンペラーは退却、どうにか戦争は収束を迎えた




その頃、国王マスオは次なる手を打つため執事長セバスへ手紙を飛ばしていた


『少女、シエル・ドロール侯爵を保護するように』


しかしその手紙が届くより早く、領主を失った民衆の反感が爆発、ついには領民の反乱が起こり、ドロール侯爵家は炎に包まれて滅びた

幸い、使用人と先読みしていた執事長セバスの手によってシエルは国外へ逃げ延びることができた




王都にその報告が届くと、マスオは静かに目を閉じ〈未来視〉で先を見据える


──他国へと逃げた少女が〈封印〉の力を抱え、各地を巡り、災厄や天災を押さえ、人々を救う姿

それは〝のろい〟ではなく〝まじない〟として能力が用いられる未来だった


マスオはゆっくりと目を開き、家臣に命じた


「ドロール家に関する一切の記録を消せ」


それは幼い少女が再び爵位や呪われた名に縛られぬようにする、国王としての慈悲であった

こうして名門ドロール家は歴史から抹消され、シエルは〝存在しなかった者〟となったのである




やがて少女の旅路が一人の少年の運命を形作ることになる

その少年こそ後の〝義賊ドロエル〟となるのだが、この時は誰一人としてその未来を知る者はいなかった

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